なぜ貴女の英語は通じないのか? 日本語の省略が異文化コミュニケーションに与える影響

何かがない、でもそれが何だか分からない

自分の英語の問題点を自覚できない

学生時代、英語で論文を書いた時、担当教授に提出する前にクラスメートでネイティブスピーカーのアメリカ人に必ず自分の英語を直してもらっていた(食事をおごったりして)。その時、よく「この部分、何かが欠けてるね!」と指摘されたことがある。

当時は、自分に何か思考的能力の欠陥があるのかと落胆したものだが、実は、日英文法上の違いが原因だとわかった時、ずいぶんとほっとしたものだ。

問題は英語ではなく日本語にあった!

どういうことかというと、日本人にはその文法の性質上、論理的に考えられない場合がある。

例えば、簡単な例で、「桜は生物だ(生きている)」と言いたい場合、三段論法では、

  1. 1、桜は、植物である
  2. 2、植物は、生物(生きている)である
  3. 3、だから桜は生物(生きている)である。

というように言う。

「当たり前」を省略する日本語 👉 英語が通じない原因

しかし、この2番の部分を欠く傾向が見られるのが日本人だと、「日本人を知らないアメリカ人。アメリカ人を知らない日本人」の著者の一人であるマイケル・バーガー氏は指摘している。

日本語は、言語学上、ゼロアナフォラ言語と呼ばれ、「彼」「それ」などの代名詞は文法上省略される。繰り返して同じことを言うのはくどいと感じるからだろう。だから、英語を日本語に訳す場合、いちいち he を「彼」と訳さないですむような表現方法はないか、と訳者は考える。ちなみに「彼」が一人の男性を指すようになったのは明治以降だ。

日本語において主語は、誰を指すのか分かりきった状況では省略される。話し手と聞き手が共に了解している「トピック(助詞『は』によって示される場合が多い)」も、省略された方がくどくなくて、自然な流れだと日本人は感じる。つまり、共通認識事項は省略されやすい、ということ。つまり、古い情報は省略され、新しい情報のみが表現される、それが日本語の文法なのだ。

バーガー氏が指摘する問題は、こういう文法上の影響に起因すると考えられる。つまり、お互いが分かりきったことは省略する、という文法上のルールが、三段論法的な思考プロセスにも知らず知らずのうちに適用されてしまう。「植物が生物である」ことは、多くの日本人が当たり前すぎると思うため、論理的思考から自然と欠落してしまうのだろう。

まとめ:日本語で省略されるもの

  1. 代名詞、
  2. トピック:助詞「は」で表されるもので、繰り返されるから
  3. 当たり前と思われる事実

(1)「象に変身?!」省略文法の具体例

A:「貴女はカバが好きなのね。太郎さんは、象とカバでは、どっちが好きなんでしょうね。知ってる?」

B:「彼は象だね。」

ここで省略されているもの(太字部分)は、

A:太郎さんは、象とカバでは、(彼にとって)どっちが好き(な動物)なんでしょうね。(あなたは)知ってる?

B:彼(が好きな動物)は、象だ。

解説:

  • 代名詞(彼)は、繰り返しになりくどいので省略。
  • 「象とカバ」と言った時点で、象もカバも動物であることが当然なので、「動物」が省略されている。
  • この会話では、話者が直接話しかけているので、聞いている相手は「あなた」に決まっているので、それも省略。
  • 相手が既に好きな動物(トピック:話題)について語っているため、繰り返しを避け、新しい情報だけが聞きたいので、「好きな動物」の部分は省略される。

直訳英語はタブー!

さてここで、Bさんの省略された部分を考慮せず、表面上の新しい情報の部分だけを機械的に直訳してしまうと大変なことになる。

(B1)  彼は、象だ。→He is an elephant.

もし、英語のネイティブスピーカーがこれを聞いたら、「彼は人間であることをやめて象になってしまった」と言っているように聞こえて思わず笑ってしまいそうになる。しかしもちろん、彼が象になるわけがない。人間のままだ。普通、そういうことはあり得ないので、

(B2)  彼は、象だ。→He likes the elephant better.

との意味だと理解するだろう。”He is an elephant.” は、この訳の間違いだと、すぐに分かであろうが、なんとなく変な気分になるわけだ。なぜかと言うと、アメリカ人をはじめとする英語話者は、文章の中から隠された部分を抽出する機能が、日本人ほど発達していないので脳が疲れてしまうのだ。

上の(B2)英語をよく見てみると、日本語の省略されている部分(トピック:好きであること)が表面化し、英語になっているのが分かる。しかし、元々の省略部分を表面化した日本語に対して忠実に英訳するとしたら、

B:彼(が好きな動物)は、象だ。→The animal he likes better is the elephant. 

このようになり、これもオプションの一つとして考えられても当然だ。しかし、会話の自然な流れを考慮しないといけない。だから、少し遡って、Aさんの質問に注目して、これを英訳すると、

A:「太郎さんは、象とカバでは、どっちが好きなんでしょうね。知ってる?」→  Do you know which animals Taro likes better, an elephant or hippo?

となるので、それに対する答えは、

B:He likes the elephant better.

となるのが自然であり、結局、Bさんの答えとしては、”The animal he likes better is the elephant.”ではなくて、 こちらの訳で応えた方がより自然な流れとなる。

ここまでは、大抵の人は納得できると思う。しかし次の場合はどうだろうか?

(2)「私は休みです!」を英語でどう言うか?

助詞「は」が出てくると、「私は学生です」→ “I am a student.” のように、Be動詞を、つい使ってしまいがちだ。なので、

「私は休みです」→  I’m day-off.

と直訳英語をつい言ってしまって、「おっといけない!」と自分で気づくこともあるし、日本人の友人が、そんな英語を使っているのを聞く場合もよくある。つい、私もこの直訳英語を使ってしまった時、アメリカ人の同僚(B)は、いつも決まって、

A(私):”I’m day-off.”

B: “No, you are not!”(そんなわけないじゃん!)

と言ってからかってくる。なぜなら、私たちは人間であって、”day off” という概念に変身したわけではないからだ。つまり、この英語は間違い。

間違いを正すために、日本語で、何が省略されているか(太字部分)、深層部分をよく考えて欲しい。

「私は(今日は仕事が)休みです」。または、「私について言うと、今日が休みなんです」

なので、この隠れた部分を伝えないといけない。したがって、正しい英語は、

Speaking about me, it is my day off today. 

と言うのが適切だと思うが、普通、英語では、わざわざ Speaking about me, ということは、よっぽど前に特別な文脈(例えば、「彼は?」「彼女は?」と会話がずっと続いてきて自分の番がきた時など)が与えられないと言わないので、

It is my day off today.

と言うのが自然だ。また、「私」を文章に入れたい時は、

I am taking a day off today.   I have a day-off today.   I am not working today. 

などと言えばよい。さらに、

My day off is today.    I am off today.

などの表現を使うと、自然な英語に聞こえる。ちなみに、それぞれの微妙なニュアンスの違いを説明すると、

  • ”my day off” だと、定期的な休みのような感じで、”a day off” だと、定休ではない、変則的、または特別な休みという感じ。
  • “taking a day off” だと、わざわざ休みを取る、という自主的な感じを表すが、”have a day-off” だと、たまたま休みというか、客観的、受身的な感じを受ける。
  • I am not working today:  こちらは、休みというより、「働かない」というところにフォーカスがある。
  • My day off is today:  これは、「あなたのいつもの休みはいつなの?」と聞かれて答える場合。あるいは、「いつも決まって休むのは今日(例えば月曜)なんだ」と強調したい時に使う。
  • I am off today. こちらは、一番簡単でカジュアルな言い方。アメリカで暮らす人はよく聞く表現なので、これを言い間違えて、I’m day off. と言ってしまうのかもしれない。

見えない部分を見える化する努力が鍵

ネイティブスピーカーのアメリカ人の友人が私の英文を読んで「何かが欠けてる」と思う。でもそれが何なのか、私は指摘されるまで分からなかった。当たり前すぎてそれに気づかなかったのだ。もし、それがチェックされないままだったら、本意を理解されないまま、私の論文は不可になっていたかもしれない。日本人が外国人と英語でコミュニケーションを取る時には、注意すべき点だと思う。英語だけではない、日本語でのコミュニケーションにも当てはまるはずだ。

しかし、このような「当たり前な部分は省略される」傾向がある、と一度認識すれば、やがて慣れてできるようになるだろう。よく「あれだよ。あれ」「ああ、あれね」で、済んでしまうような会話は、常に「あれ」とは何かを意識して言語化する努力をすればよい。

書き言葉に関しては、英訳した文章を読み返した時に、論理的に筋が通っているかどうかをチェックしたり、代名詞が欠けてないか吟味する。特に「XXは、◎◎だ」の英訳には要注意。大抵の場合、それを直訳したら意味不明の英文になる。上記のように、三段論法的に考えると、何かが欠ける場合が多い。

話している時は、即座に考えて修正するのは難しいが、あとで修正、言い直しすることはできる。一番の訓練法は、誰か異文化出身の人とコミュニケーションを取る機会を増やすこと。誤解が生じた時がそれに気づくチャンス。もしくは、聞き手の怪訝な顔に敏感になって、自らそれに気づくようになればいい。そしてそれに気づいた時、自分に課する質問は、何か当たり前すぎて省略していることはないかであり、「こんなこと相手も当然分かっているだろう、という思い込みはないか」だ。

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