「多文化共生」の本当の意味とは? The Culture of One®に学ぶ、違いを力に変える4つのA

“信元夏代のスピーチ術” 編集長、プロフェッショナルスピーカーの 信元です。

先日、ある基調講演の原稿を書き上げながら、改めて感じたことがあります。

「多文化共生」という言葉は、驚くほど誤解されている、ということです。多くの人が「国籍や文化的背景の違う人同士が、仲良く一緒に暮らすこと」だとイメージします。でも、それだけでは足りません。本当の多文化共生は、たとえ同じ国、同じ言語を話す相手であっても、一人ひとりが違う「常識」を持っている、という事実を認めるところから始まります。今日は、私自身の基調講演『The Culture of One®』の内容と、世田谷区議会議員のオルズグルさんが新しい政治団体「新世党」の設立にあたって綴った言葉をあわせてご紹介しながら、多文化共生の本当の意味を一緒に考えていきます。

この記事でわかること

  • 「多文化共生」がすれ違ってしまう、本当の理由
  • The Culture of One®——「国籍」ではなく「個」を見るという発想
  • 誤解・不信感を防ぐ「4つのA」(Acknowledge・Analyze・Adapt・Attitude)
  • 「良い質問」を成り立たせる、2つの軸
  • 地域社会に見る、多文化「共創」の実践例

「多文化共生」がすれ違う、本当の理由

10年ほど前、私は病院の診察室で、医師からある生検結果を渡されました。「異常なし」。ホッとしたのも束の間、その医師は、あえてその結果を差し戻すことにしました。

食パンを思い浮かべてみて。4枚切りで見るのと、8枚切りで薄く切って見るのとでは、見え方が変わってくる。今は4枚切りの精度。もう一段階、薄く切って確認したい」。

8枚切りの結果が戻ってきたとき——がんが見つかりました。表面をなぞっただけでは、見えないものがある。もう一段階、奥まで踏み込んで、はじめて本当に大切なものが見えてくる。この経験は、その後まったく別の場面で、思い知ることになりました。

2005年、私がニューヨークで戦略コンサルティング会社を立ち上げて間もない頃のことです。クライアントは、仮にミスターKとしましょう。元官僚で、400年の歴史を持つ日本の伝統工芸品メーカーの会長でした。すでに固まった戦略を持っていたミスターKは、それがアメリカで本当に通じるか確認するために、私を雇いました。私は当時すでにアメリカに10年住んでいて、アメリカの流儀も、日本の流儀も、十分わかっているつもりでした。同じ日本人同士だから、同じ「常識」を共有しているはず——そう思い込んでいたのです。でも実際には、育った環境も、仕事の進め方への価値観も、まったく違っていました。徹底したリサーチと分析をもとに、完璧なロジックで組み立てたプレゼンテーションをミスターKに送ったところ、返ってきたのは「失礼だ。クビだ。帰れ」という言葉でした。同じ国、同じ言語を話していたはずなのに、私たちの間には、大きな文化の壁があったのです。

私たちは皆、タマネギが層になっているように、育ち方・教育・社会的立場など、たくさんの層を重ねて「自分」という個の文化をつくっています。国籍や人種は、その一番外側の層にすぎません。ハーバード大学のImplicit Association Test (潜在的連想テスト)によると、約70%の人が、無意識のうちに、相手を外見だけで判断するバイアスを持っているそうです。同じ国、同じ民族の相手であっても、内側の層まで理解しなければ、誤解や不信感は簡単に生まれてしまうのです。

The Culture of One®——一人ひとりが、一つの文化を持っている

この「一人ひとりが、世界に一つだけの独自の文化を持っている」という考え方を、私は「The Culture of One®」と呼んでいます。

従来の異文化研修では、国ごとの傾向やマナーを学ぶことが中心でした。また、色々なフレームワークに基づいて相手を分析する、という手法も良く使われます。Hofstede Model、The Culture Map、High Context Low Contextなど、皆さんも聞いたことがあるかもしれません。

このような従来型のアプローチは、相手のことをまったく知らない場面での入り口としては役立ちます。でも、そこで止まってしまうと「洗練されたステレオタイプ」に陥ってしまいます。データや研究に裏付けられているぶん、「自分はこの文化を理解している」と錯覚しやすく、知らないうちに「その国の人はこうに違いない」という思い込みを固めてしまうのです。本当に相手とつながるためには、国籍という外側の層の、さらに奥にある「個」を理解する必要があるのです。

壁を力に変える「4つのA

The Culture of One®を実践に落とし込むために、私は、基調講演、The Culture of Oneの中で、次の4つのステップをお伝えしています。

  • Acknowledge(認める):自分の「常識」は、相手にとっての常識ではないかもしれない、と認めるオープンマインドな姿勢
  • Analyze(分析する):高コンテクスト(察しの文化)・低コンテクスト(言葉の文化)など、既存の枠組みを、あくまで「入口」として使い、相手の傾向を探る
  • Adapt(適応する):「言葉の奥を聴く」姿勢で、相手が心から答えたくなる「良い質問」を投げかけ、対話をファシリテートする
  • Attitude(姿勢):誠実な好奇心・聴いて調和する・Yes, Andの精神——「誠・和・魂」というマインドセットで、3つのAを土台から支える

このうち、実践で一番差がつくのが「Adapt」、なかでも「良い質問」のつくり方です。

良い質問には、二つの軸があります。

  • 相手が「答えたい」と思えるかどうか:どんなに鋭い質問でも、相手が防衛的になってしまえば、本音は引き出せません
  • その答えが「両者にとっての気づき」につながるかどうか:すでにお互いが知っていることを聞くだけでは、深いつながりは生まれません

この二つの軸がそろって、はじめて「良い質問」と呼べます。

先ほどのミスターKの例で考えてみましょう。例えば、こんな質問を考えたとします。

「日本での成功を再現するために、アメリカで乗り越えるべき最大の課題は何でしょうか?」

これは、答えに新しい気づきはあるかもしれませんが、自信家で権威ある立場のミスターKにとっては、答えたくなる質問ではありません。むしろ、自分の戦略を疑われたように感じ、身構えてしまうでしょう。つまり、最初の軸、「答えたいと思える」という軸が抜けています。

そこで、こう言い換えてみます。

「ミスターK、日本での御社の戦略は、非常に効果的です。そこで是非ご教示いただきたいのですが、この成功をこちらで再現するとしたら、私たちチームがアメリカで乗り越えなければならない最大の課題は何だろう、と悩んでいるんです。ぜひご見識を聞かせて頂けないでしょうか」。

まず敬意を示し、主語を「あなた」から「私たちチーム」に変え、そして「教えてほしい」とへりくだって尋ねる。

同じテーマを聞いていても、相手の「答えたい」気持ちを大きく引き出す質問に変わります。

二つの軸がそろって、はじめて対話は深まっていくのです。

地域から始まる、多文化「共創」

この考え方は、企業のチームだけの話ではありません。私の知人で、世田谷区議会議員を務めるオルズグルさんは、2026年9月14日、新しい政治団体「新世党」の設立を発表しました。その際にこう綴っています。

「同じ地域で暮らすのであれば、日本の法律や地域のルールを守り、日本の文化を尊重する。日本の文化を守ることと、多様な人々が活躍することは、対立するものではありません。『和をもって貴しとなす』という日本の精神のもと、違いを力に変え、ともに新しい社会をつくる。それが新世党の考える多文化共創です。」

そして、こうも書いています。

「年齢、国籍、性別、外見、障がいの有無、育ってきた環境、職業や立場など……それぞれの違いによって誰かが地域から取り残されることなく、誰もが安心して暮らし、自分らしい形で地域社会に参加できる社会」を目指す。

まさに、それぞれの「Culture of One®」を認め合い(Acknowledge)、相手の背景を理解し(Analyze)、共に新しいものをつくる形へと適応していく(Adapt)——3つのAが、地域という現場で実践されている一例だと感じます。

【重大なご報告】 本日、9月14日、 縁起が良いとされる大安であり、一粒万倍日に、 内幸町の日本プレスセンターで記者会見…

多文化共生とは、「同じになること」ではなく「違いを力に変え、共に創ること」

多文化共生は、違いをなくして一つにまとまることではありません。一人ひとりが持つ「Culture of One®」を認め、分析し、適応させながら、お互いの違いを力に変えていくプロセスです。それは、国と国の間だけでなく、同じ会社の同僚同士、同じ地域に暮らす隣人同士でも、日々問われていることです。明日、誰かと違いを感じたときにこそ、ぜひ「良い質問」を、二つの軸を意識しながら、投げかけてみてください。

よくある質問

  1. 「多文化共生」と「多文化共創」は、どう違うのですか?

    A. 「共生」が「共に暮らすこと」に重きを置く言葉なのに対し、「共創」は「一緒に新しいものをつくること」まで踏み込んだ考え方です。The Culture of One®の視点で見ると、両者はどちらも、一人ひとりの違いを認めるところから始まるという点で、根っこは同じです。

  2. The Culture of One®とは、どのような考え方ですか?

    A. 国籍や人種といった外側の属性だけでなく、育ち方や価値観など、一人ひとりが重ねてきた経験の層まで理解しようとする考え方です。信元が基調講演で提唱している、異文化コミュニケーションの基本コンセプトです。

  3. 「良い質問」は、どうすればつくれますか?

    A. 二つの軸を意識してください。一つは、相手が「答えたい」と思えるかどうか。もう一つは、その答えが自分と相手、両方にとっての新しい気づきにつながるかどうか。この二つがそろって、はじめて「良い質問」と呼べます。そして、まず、相手がいつも考えているトピックを基盤とし、ブラインドスポットとなる、異なるアングルがないか、探ってみましょう。そのアングルこそが、「気づき」を引き出すきっかけとなるのです。

  4. この考え方は、企業以外の場でも使えますか?

    A. はい。今回ご紹介したオルズグルさんの例のように、地域社会やコミュニティづくりにも応用できる考え方です。一人ひとりの違いを認め合うことは、どんな場でも共通の出発点になります。

>ウェビナー基礎コースのお申込みはコチラ!

ウェビナー基礎コースのお申込みはコチラ!

伝えるだけでは、人は動かない。

「動かす」ための世界標準スピーチ術を、1か月で習得しませんか?
3月~4月金曜講座は【3/12(木)まで】お申込みは公式ページから!

CTR IMG