”信元夏代のスピーチ術” 編集長、プロフェッショナルスピーカーの 信元です。
スピーチでストーリーを語っているのに、なぜか聴衆が入り込んでこない。
そんな経験はないでしょうか。
ストーリーの内容は悪くない。
オチもある。
それなのに、どこか距離を感じる。
実はその原因は、ストーリーの内容ではなく「時制」にあることが少なくありません。
ほんの小さなテクニックですが、これを変えるだけでストーリーは
説明 → 体験
へと変わります。
今日は、ステージでストーリーを語るときに大きな差を生む、現在形ストーリーテリングについてお話しします。
この記事の内容
優れたストーリーには共通する基本原則がある
ストーリーテリングにはさまざまな形があります。
SFやファンタジー、歴史物語、伝記など、ジャンルによって表現方法は大きく異なります。
しかし、優れたストーリーには共通する基本原則があります。
例えば次のようなものです。
-
物語はアクションから始め、聴衆をすぐに引き込む
-
明確な構造を持たせる(例:三幕構成)
-
具体的な描写を使い、情景をイメージさせる
-
登場人物・対立・感情を通して緊張と解放を作る
そして私が企業研修やコーチングで教えている、戦略的ストーリー術「6つのC」の視点でストーリーを組み立てると、話は単なるエピソードではなく、聴衆の共感と行動につながるストーリーへと進化します。
アメリカ次期大統領バイデン氏が、副大統領候補を選定する際候補に挙がっていた、ある黒人女性の政治家が脚光を浴びています。 2019年、トランプ米大統領の一般教書演説を受けて、民主党の代表として、反論演説を行った際の彼女のスピーチは、まさにストーリーの力を戦略的に組み込まれた素晴らしいものでした。ブレイクスルースピーキングで提唱する「6つのC」に沿って徹底解説します。
こうした基本に加えて、ステージで語るときに非常に効果的なテクニックがあります。
それが
現在形で語るストーリーテリング
です。
その違いを、まずは次の2つのストーリーで見てみましょう。
同じような状況のストーリー、でも語り方が違うと印象が変わる
次の2つのストーリーは、
どちらもホテルのレストランで働く若いスタッフの出来事です。
状況は似ていますが、語り方が違います。
§バージョン1
“When I was 23, I was working at a hotel restaurant near the airport. It was the kind of place where travelers came in waves depending on flight schedules.
One afternoon I showed up for my shift expecting the usual slow start. But within minutes the restaurant started filling up.
A table of four walked in.
Then a group of six.
Then another large party.
The kitchen was already struggling to keep up.
Just as I was trying to organize the tables, the manager rushed over.
A major flight had just been delayed.
And dozens of passengers were heading straight to the restaurant.”
§バージョン2
“I’m 23 years old and starting my shift at a hotel restaurant near the airport.
The place looks calm at first. A couple is sitting near the window. A business traveler is working on his laptop at the bar.
I’m thinking, maybe tonight will be an easy shift.
Then suddenly the front desk clerk runs into the restaurant.
‘You might want to get ready,’ she says.
‘Why?’
She points toward the lobby.
A tour bus has just arrived.
And about thirty hungry tourists are walking toward the restaurant right now.”
この2つの違いは何か?
大きな違いは、動詞の時制(verb tense)です。
-
バージョン1→ 過去形
-
バージョン2→ 現在形
ステージでストーリーを語るとき、この違いは驚くほど大きな影響を生みます。
現在形ストーリーが生み出す臨場感
私たちは普段、ストーリーを過去形で語ります。
それは自然なことです。
出来事はすでに終わっているからです。
でもスピーチでは、現在形で語ることでストーリーが一気に生き始めます。
現在形で語ると
-
物語が「今起きている」ように感じられる
-
聴衆がその場にいるような感覚になる
-
緊張感と没入感が生まれる
つまり
説明 → 体験
へと変わるのです。
ストーリーテリングの重要な目的①
「その瞬間」を生きる
多くのスピーカーは、ストーリーを
「すでに問題を乗り越えた視点」
から語ります。
つまり
-
結末を知っている
-
安全な場所から語っている
状態です。
でもその語り方では、ストーリーの緊張感が消えてしまいます。
そこで重要なのが
ストーリーの中に戻ること。
-
不安な瞬間
-
何が起きるかわからない瞬間
-
決断を迫られる瞬間
を、今まさに起きている出来事として語るのです。
そのためのポイントは次の3つです。
-
何が起きるか知らないかのように語る
-
ストーリーの先に進まない
-
葛藤の中に留まる
すると聴衆は、ストーリーを聞くのではなく、今、自分に起こっているかのように体験します。
ストーリーテリングの重要な目的②
五感を動かす
もう一つ重要なのが、感覚描写です。
五感を使うと
-
情景が鮮明になる
-
感情が動く
-
記憶に残る
ストーリーは
情報 → 体験
へと変わります。
例えば
-
見えるもの
-
聞こえる音
-
匂い
-
身体感覚
こうしたディテールが、聴衆の想像力を刺激します。
ただし説明が多すぎると、ストーリーの流れが止まってしまいます。
大切なのは物語を前に進めるディテールだけを選ぶこと。
ストーリーを書き直してみよう
このテクニックは、すぐに試すことができます。
-
スピーチのストーリーを一つ選ぶ
-
時制を確認する
-
感情が弱くなる部分を探す
-
現在形で書き直す
-
リハーサルする
-
実際の聴衆で試す
すると多くの場合
-
聴衆の集中度
-
感情の反応
-
ストーリーの記憶度
が大きく変わります。
優れたスピーチは、単に情報を伝えるものではありません。
聴衆がその場で出来事を「体験」し、感情が動き、最後にメッセージが腹落ちする──その瞬間に、人は初めて行動を起こします。
ストーリーを現在形で語るという小さな工夫が、あなたのスピーチを「いい話」から人を動かすメッセージへと変えていくのです。
そして、そうして語られたストーリーは、人の記憶に残ります。
会議の場で思い出され、誰かに語られ、また別の誰かに伝わる。
Great stories get retold.
Again.
And again.
