自分軸を持ってスピーチするためのマインドセットとは?

「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。

まずは自分をさらけ出す勇気を持とう!

多くの場合、人はロールモデルとなる人、尊敬する人、理想とする人を目標にしていくものです。もちろん、彼らから学ぶことはたくさんあることでしょう。 でもみなさんは、彼らそのものにはなれません。そして周りの人たちも「誰かの真似をしているリーダー」にはついていきたいとは思わないはずです。

私はリーダーの方々に、スピーチ・プレゼンの個人コーチングや戦略コンサルティングで、直接お話をさせていただく機会が多くありますが、すばらしいリーダーだな、と思う方々に共通していることがあります。

それは謙虚で、学びを忘れず、そして自分らしさをさらけ出すことを恐れない、ということです。なにもおのれを恰好つけたり、良く見せたりする必要もないのです。それよりも自分の生々しい失敗談のほうが、よほど親近感を抱くのです。

あなた自身の失敗、苦労したこと、うまくいかなかったことからの学びのほうが、よほど聞き手を動かします。

「恐れずに、自分をさらけだそう!」とすべてのスピーチ習得者やリーダー候補者に、声を大にして伝えたいところです。

”フィードフォーワード”を心がける

自分をさらけだして、自分らしさを発揮してこそ、自分だけのスタイルが見つかります。自分の経験を振り返り、心の中を見つめ、何を思いどう感じ何を学んだのかを、改めて客観的に熟考することです。つまり、内省、ということです。

似ている言葉に、

反省とは過去に起こった自分の間違いを振り返る、

いわばネガティブ視点を起点とするフィードバックですが、

内省とは、自分自身と向き合い、

自分の考えや言動を振り返り気づきを得ることで今後につなげる、いわばポジティブ視点のフィードフォワードです。

できるリーダーとは「利益相反のバランスを保つ一方で「正しい」決断を迅速に躊躇なく下せるリーダー」です。内省ができるリーダーはトップリーダーになり得るのです。

自分の姿を客観的に分析するための3つの方法

スピーチに置いて言うならば、自分らしくスピーチするため、つまり自分らしさを生かしたスピーカーになるためには、またデリバリー(話し方)においても、録画をしてみて、自分がどんな話し方をしているか、チェックしてみましょう。

話している自分の姿はどのように映っているでしょうか。どんなリーダーに見えますか。

誰かの真似ではなく、自分らしさを効果的に見せられているでしょうか。

ふだんは活発な印象のあなたなのに、スピーチをしている姿は自信がなさそうだったり、あるいはふだんは温和なタイプなのに、スピーチの時には無理して憧れのトニー・ロビンズに似せようとしたりしていないでしょうか?

自分らしいスタイルを探すためにも、ぜひ録画を3通りの方法で見ながら自分の姿を客観的に分析してみてください。

①そのまま見る

これこそ聞き手が見ている、スピーカーとしてのあなたの姿そのものです。中にはスピーチの練習は鏡に向かってやる、という方がいらっしゃいますが、これは表情の確認などをするのでない限り、お勧めしません。あくまで聞き手視点に立ち、聞き手から見てあなたがどう映っているのか、そのありのままの姿を認識する必要があるからです。実際のスピーチでは鏡に向かって話しませんよね?

②音声を消して見る

動きに集中してみてみると、ボディランゲージのクセが見えてきます。緊張していて無駄にウロウロ歩いているかもしれませんし、同じ手の動きが繰り返されているかもしれません。あるいは、ずっと定位置を動かないので物理的なコントラストがなく、見ていてつまらないかもしれません。

③音声だけを聞く

音声だけを聞いてみると、自分でも気づかなかったほど、「えー」「そのー」を繰り返していて耳障りかもしれません。あるいは、声に抑揚がなく眠くなりそうな話し方だったり、早口になっていたり、せっかくのストーリーなのに感情が伝わらない無機質な話し方になっているかもしれません。

 

このように3通りの方法で録画を確認しながら、気づかなかったクセを直していきつつ、自分をエネルギッシュに見せたいのか、あるいはインテリジェントに見せたいのか。自分が打ち出したい「自分ブランド」の方向に、デリバリーを寄せていきましょう。

あなたの特徴的な強みを、よりボリュームアップしていくことで、自分らしい話し方のスタイルは確立されていくのです。

Yes, AND…

もうひとつ、大切なマインドがあります。

それはYes, And、のマインドです。

 

私は実は2017年に乳がんの告知を受けて、数回にわたる手術を重ねました。今でもまだ投薬をしています。

告知を受けた時、まさに意識したのは、「Yes ,And」のマインドでした。

そうなってしまったことは変えられない。でも変えられるのは自分のマインドです。大変な状況であればあるほど、その体験は、「私だからこそ話せる」ストーリーになる、そしてそのストーリーを聞きたい人たちが世界にいる。だからこそ、自分のありのままをさらけ出し、聞き手と繋がり、聞き手を動かしていきたい。まさに、「Yes And」の精神です。自分がくぐり抜けた苦労や心痛、あるいは困難な時期というのは、あなたにしか語れないネタの宝庫になるのです。

 

 また2019年のスピーチ大会で、私が選んだストーリーも、きわめて個人的な体験です。

 

 かつてアメリカの大学に留学した時、意気揚々とキャンパスに入学した私は、膨らんでいた期待を、早々と打ち砕かれたのです。

 なぜなら周りのアメリカ人学生たちが話している英語にまったくついていけなかったのです。英語なら自信があったのに。

 What’s up?(調子どう?)と言われて上(up)のことかと思ったり、That sucks!(サイテー)と聞いてソックスがどうしたのだろう、と思ったり。

 スラングや言い回しがが全く分からないため、会話が全然できなくて、「話せない」と恐怖を感じるようになっていきました。

 毎日食事が終わるとすぐ部屋に入り、ドアをぴしゃりと閉めていました。劣等感でいっぱいで、よく泣いていました。

 それが大きく変わったのは、3ヶ月ほど経ってからです。

 アメリカでは学生たちは毎週金曜日になるとビールを片手にパーティをするのですが、私は参加するなんてとんでもないと思っていました。

 しかし部屋に戻ろうとしたあるとき、ネートという男の子に腕を掴まれて、

「ねえ、きみっていつも人を避けてない?」

と聞かれたのです。

 私は自分のなかのモヤモヤが張りつめていて、水をたっぷり詰め込んだ風船のような状態でした。だからネートのこの言葉に、風船をパンと割ったようになり、大泣きしてしまったのです。パーティをやっている人たちは驚いて、何事かと私の周りに集まってきました。

 私は泣きながら片言の英語で、「だって英語上手くないし、話せないし……」と言いました。すると、ネートは、

「So What?」(それが何?)

 といったのです。

 その瞬間、自分の中ですごく気にしていたこと、「英語が上手くないと渡り合えない」と思っていたことから解放されたのです。

 自分の下手な英語で分かってもらえないかもしれない、相手が話していることがわからなかったら会話に参加してはいけない。そう思い込んでいたけれど、実は周りはまったく気にしないのだと。

 その翌日から、私は同じフロアの比較的話しやすい留学生のところに無理やり質問を作って、聞きにいくようになりました。

このストーリーには、驚くほど多くの方が共感してくれました。

たかだか留学時代のエピソードです。けれども、そこには多くの人が共感できる普遍的なものがあったのでしょう。

個人の体験には、じつは普遍的にシェアできる知恵が含まれているのです。

自分をさらけ出した先にはあなただけのストーリーが待っている

あなたの人生にも、さまざまなコンフリクトや危機があるでしょう。

人生は常に順風満帆ばかりではありません。苦労をする時も、事故も病気も、失敗も破綻も、つらい時も悲しい時もあって、誰もが避けられないのです。

どんな人であっても苦労や困難はついて回ります。

しかしその人生で織りなす、さまざまな経験こそ、あなたのストーリーを豊かにしてくれるものなのです。

 

あなたが出会った困難、必死の努力、報われなかったこと、否定されたこと、失敗したこと、悔しかったこと、もう終わりだと落ち込んだこと。

それらは、じつはストーリーの宝庫なのです。

あなたは痛みを背負ったぶん、豊かなストーリーも得ることができたのです。

 

あなたと同じ経験をして、同じ学びを得た人間は、この世に他に誰もいません。

あなたの経験は、あなただけのストーリーです。

たったひとりのあなたとして語ることができるストーリーテリングなのです。

明日からあなただけのストーリーを堂々と語っていきましょう!そうすることで、自分軸もしっかりと確立されていくと信じています。

 

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