AIを活用したスピーチ原稿の作り方|任せきりにせず、自分の言葉で仕上げる4ステップ(後編)

(前編より続く)

III.AIを活用しながら良いスピーチを作る4つのプロセス

3-1.掘る:自分の中の「砂金」を見つける

 AIを使ってスピーチを作ろうとすると、多くの人は、最初にこう入力する。

 「健康管理をテーマに、3分間のスピーチ原稿を作ってください」

 これでも、文章として整った原稿は出来上がる。しかし、AIに与えた材料が「健康管理」と「3分間」だけなら、返ってくるのは一般論になりやすい。

 「規則正しい生活を心がけましょう」

 「バランスのよい食事と適度な運動が大切です」

 どれも間違いではない。しかし、これだけでは、なぜあなたがその話をするのかが見えてこない。聞き手にとっても、どこかで何度も聞いた話に感じられるだろう。

 そこで、いきなりAIに原稿を書かせるのではなく、最初に行うのが「掘る」という作業である。

スピーチの材料は、AIの中ではなく自分の中にある

 あなたは、すでにスピーチの材料を持っている。

 仕事で失敗して悔しかったこと。勇気を出して挑戦したこと。誰かの一言に救われたこと。自分では正しいと思っていたのに、相手を傷つけてしまったこと。苦しい経験を通して、考え方が変わったこと。

 こうした一つひとつの出来事の中に、自分にしか語れない「砂金」が眠っている。

 しかし、自分の経験は、自分にとってあまりにも身近である。そのため、「こんなことは誰にでもある」「わざわざ人に話すほどのことではない」と思い、見過ごしてしまうことが多い。

 ご存じだろうか? 本人には平凡に思える経験でも、別の人にとっては、大きな気づきや勇気につながることがある。大切なのは、経験の大きさではない。その出来事を通して何を感じ、何に気づき、どのように変わったのかである。

AIを「原稿の代筆者」ではなく「質問役」にする

 自分の中に「砂金」があるといわれても、すぐに見つけられるとは限らない。

 そんなときこそ、AIが役に立つ。完成原稿を書かせるのではなく、自分の経験を掘り下げるための質問役として使うのである。

 たとえば、次のように依頼してみよう。

 「健康管理について3分間のスピーチを作りたいと思っています。まだ原稿は書かないでください。私にしか語れない経験やメッセージを見つけるため、一度に一つずつ質問してください。私の答えが抽象的な場合は、出来事、感情、行動、変化がわかるように掘り下げてください」

 すると、AIは次のような質問を投げかけてくるだろう。

  • なぜ、今、このテーマについて話したいのか
  • 健康の大切さを実感した具体的な出来事はあるか
  • そのとき、どのような状況に置かれていたのか
  • 最もつらかったことや不安だったことは何か
  • その経験をきっかけに、どのような行動を始めたのか
  • 行動を変えた結果、自分や周囲にどのような変化があったのか
  • その経験から得た、最も大きな気づきは何か
  • 同じ問題を抱える聞き手に、何を伝えたいのか

 こうした問いに答えていくと、「健康管理は大切である」という一般論の下から、具体的な経験が少しずつ姿を現してくる。

出来事だけでなく、感情まで掘り下げる

 ここで注意したいのは、起きた出来事だけを説明して終わらせないことである。たとえば、あなたが次のように答えたとする。

 「忙しくて体調を崩し、会社を休みました。それから、毎朝30分歩くようになりました」

 これだけでも事実は伝わる。しかし、聞き手の心を動かすには、さらに深く掘り下げる必要がある。

 なぜ、体調を崩すまで無理を続けてしまったのか。会社を休んだ朝、どのような気持ちだったのか。仕事仲間や家族の反応を見て、何を感じたのか。最初に歩き始めた日は、どのような景色が見えたのか。毎朝歩くうちに、体だけでなく、心や生活はどう変わったのか。

 たとえば、AIに次のように頼むこともできる。

 「今の答えには、まだ抽象的な部分がありますか? 聞き手がその場面を思い浮かべられるように、五感や感情について質問してください」

 すると、AIとの対話は、単なる事実確認から、そのときの自分を振り返る作業へと変わる。

 「健康を損ねた」という出来事の奥に、「周囲に迷惑をかけるまで、自分の限界を認められなかった」という気づきが見つかるかもしれない。あるいは、「毎朝歩くようになった」という習慣の奥から、「健康管理とは、自分だけのためではなく、大切な人との約束を守るためでもある」というメッセージが見えてくるかもしれない。

 ここまで掘り下げて初めて、一般論が、あなたにしか語れないスピーチの材料へと変わるのである。

一つの答えに急いで決めない

 砂金を掘る段階では、「この経験を使おう」と、最初から一つに決める必要はない。むしろ、思いついた出来事や感情を、できるだけ多く出すことが大切である。最初に思い出した経験より、対話を続ける中で後から出てきた小さな出来事の方が、聞き手の心に響くこともあるからだ。

 AIに、次のように尋ねてもよい。

  • 今の話に関連する別の経験はないか、質問してほしい
  • 私が繰り返し口にしている言葉や感情は何か
  • 私が見落としていそうな経験や価値観はあるか
  • 今までの回答から、私らしさが表れている部分を整理してほしい
  • さらに掘り下げる価値がありそうな点を三つ挙げてほしい

 ただし、この段階でAIが「あなたの本当のメッセージはこれです」と提案しても、それをすぐに正解だと思ってはいけない。

 AIは、あなたの答えを整理し、共通点や可能性を示すことはできる。しかし、「これこそ自分が本当に伝えたいことだ」と判断できるのは、あなた自身だけである。

「なぜ? Why so?」「だから何? So what?」を繰り返し自問自答すると、「本当に自分が言いたいこと」が浮き彫りになる

 経験を掘り下げるときに有効なのが、「なぜ?」を繰り返すことである。

 「毎朝歩くことが大切だと思う

 なぜ、そう思うのか。

 「歩き始めてから、体調がよくなったからだ

 なぜ、その変化を人に伝えたいのか。

 「忙しい人ほど、自分の健康を後回しにしてしまうからだ

 なぜ、それが問題だと思うのか。

 「自分が倒れれば、家族や仲間にも負担をかけてしまうと気づいたからだ

 このように掘り下げていくと、表面上は「ウォーキングを勧める話」だったものが、実は「自分を大切にすることは、周囲を大切にすることでもある」という隠れたメッセージにたどり着くことがある。

 聞き手の心を動かすのは、行動の紹介だけではない。その行動の奥にある、話し手の切実な思いや価値観なのである。

砂金を作るのはAIではない

 AIとの対話を続けていると、まるでAIが深い考えを生み出してくれたように感じることがある。しかし、忘れてはいけない。

 砂金を持っているのは、AIではなく、あなた自身である。

 AIは、質問を投げかけ、答えを整理し、見落としていたつながりを示してくれる。しかし、あなたの代わりに人生を経験することも、そのときの悔しさや喜びを感じることもできない。だからこそ、AIには、完成原稿を急いで書かせるのではなく、自分自身と対話するための「聞き上手な壁打ち相手」になってもらうのである。

 この「掘る」作業を丁寧に行えば、スピーチの材料は豊かになる。しかし、掘り出したものがすべて砂金とは限らない。また、限られた時間の中で、すべての経験を話すこともできない。

 次に必要になるのは、数ある材料の中から、本当に伝えるべきものを見極める「選別眼」である。次のプロセスでは、スピーチの基礎を判断軸にしてOne BIG Message®を決める、「選ぶ」という作業を紹介しよう。

3-2.選ぶ——One BIG Message®を決める

 前のプロセスで自分の経験を掘り下げると、さまざまな出来事や感情、気づきが出てくる。

  •  「体調を崩して、初めて自分の限界に気づいた」
  •  「毎朝歩くことで、生活のリズムが整った」
  •  「健康を損ねると、家族や仕事仲間にも負担をかけるとわかった」
  •  「自分を大切にすることは、周囲を大切にすることでもある」

 どれも、あなたの中から掘り出した大切な「砂金」である。そのため、すべてをスピーチに入れたくなるかもしれない。

 しかし、3分間のスピーチに、三つも四つもメッセージを詰め込んだらどうなるだろうか?

 話し手は多くのことを伝えたつもりでも、聞き手には何が一番大切だったのかがわからなくなる。材料が豊富であることと、伝わるスピーチになることは、同じではないのだ。そこで、次に必要になるのが「選ぶ」という作業である。

「選ぶ」とは、残りを捨てることではない

 選ぶという言葉を聞くと、せっかく掘り出した経験や気づきを捨てなければならないように感じるかもしれない。しかし、そうではない。

 今回のスピーチで使わない材料も、価値がなくなるわけではない。別のスピーチで使えるかもしれないし、後になって、もっと深いメッセージへと育つこともある。「選ぶ」とは、数ある材料の中から、今、この聞き手に最も届けるべきものを一つ決めることである。その中心となるのが、One BIG Message®である。

 One BIG Message®とは、あなたが一番伝えたいことを、日本語なら20語程度の短い一文で表したものである。スピーチを聞き終えた人に、たった一つだけ覚えて帰ってもらえるとしたら、何を残したいのか。それを明確にするのである。

テーマとOne BIG Message®は違う

 ここで注意したいのは、「テーマ」と「One BIG Message®」を混同しないことである。

 たとえば、「健康管理」はテーマであり、より大きな概念だ。しかし、これだけでは、話し手が何を伝えたいのかはわからない。「ウォーキング」も、まだ話題にすぎない。「健康のために歩きましょう」とすればメッセージにはなるが、誰にでも言える一般論であり、先ほど掘り出した自分自身の経験が十分に反映されていない。ワンビッグメッセージは、もっと絞り込んだものであり、自分がもっとも伝えたい結晶である。

 そこで、さらに自身に問いかけてみる。

 なぜ、忙しい聞き手に歩くことを勧めたいのか。

 「自分自身が、仕事を優先して体調を崩したからだ

 その経験から、一番伝えたいことは何か。

 「健康を後回しにすると、自分だけでなく周囲にも負担をかけてしまう

 だから、聞き手に何をしてほしいのか。

 「忙しい人ほど、自分の健康を守る時間を意識してつくってほしい

 ここまで考えると、たとえば次のようなOne BIG Message®が見えてくる。

 「健康を守る時間を大切な人のためにつくる」

 単なる「健康管理」というテーマが、話し手自身の経験と、聞き手への願いを含んだメッセージへと変わったのである。

AIにOne BIG Message®の候補を整理させ、比較する

 たとえば、次のように依頼してみよう。

 「これまでの私の回答から、3分間のスピーチに使えそうなOne BIG Message®の候補を5つ作ってください。それぞれ日本語で20語程度の一文にしてください。テーマだけでなく、聞き手に何を伝え、どう変わってほしいのかがわかる表現にしてください」

 候補が出てきたら、さらに次のように頼むこともできる。

 「聞き手は、仕事が忙しく、自分の健康を後回しにしがちな会社員です。スピーチの目的は、毎日の生活に小さな健康習慣を取り入れてもらうことです。5つの候補を、次の四つの基準で比較してください。

  1.  1.聞き手が自分事として受け取れるか
  2.  2.スピーチの目的につながっているか
  3.  3.私の経験が生かされているか

 各候補の長所と弱点を示してください。ただし、最終的な一つは決めないでください」

 ここで「最終的な一つは決めないでください」と加えることが重要である。

 AIの役割は、候補を整理し、違いを見えやすくするところまでだ。どれを選ぶかは、話し手自身が決めなければならない。

声に出すと、自分の本音が見えてくる

 候補を目で読んでいるだけでは、どれもよく見えることがある。そんなときは、一つずつ声に出して読んで、次の点をチェックしよう。

  • 自分の言葉として自然に言えるだろうか。
  • 読んだときに、具体的な場面や感情がよみがえるだろうか。
  • 「これは本当に伝えたい」と、心が動くだろうか。
  •  反対に、立派に見えても、口にしたときに借り物のように感じる言葉はないだろうか。

 AIは、読みやすく整った文章を作ることが得意である。しかし、あなたがその言葉に本当に実感を持てるかどうかまでは判断できない。声に出して読むことで、頭ではなく、感覚・体全体でも確かめられる。「正しそうな言葉」と「自分の言葉」の違いが見えやすくなるのだ。

選ぶのは、AIではなくあなたである

 AIは、候補を作り、言葉を短くし、複数の案を比較することができる。しかし、最終的なOne BIG Message®を決めるのは、あなた自身である。なぜなら、誰に何を届けたいのか。どの経験を語る覚悟があるのか。どの言葉なら自分の信念として話せるのか。それを決められるのは、実際に聞き手の前に立つ人だけだからだ。

 その判断の基準は、いかにあなたが「スピーチとは何か」について理解しているか、にかかっている。スピーチの基礎がわかれば、「選別眼」ができる。AIがいくつ提案してきても振り回されない。ここで学んだように、聞き手、目的、自分にしか語れない経験、という判断軸があれば、最もふさわしい一つを選べるようになる。

 その点では、スピーチ教室などで、その選別眼の「判断基準」を教わるのも効果的だ。

 「掘る」で砂金の原石を見つけ、「選ぶ」で中心となる一つを決めた。しかし、見つけたばかりの砂金は、まだ原石のままである。

 次に必要になるのは、言葉や構成を整え、One BIG Message®がより強く伝わる形へ仕上げる「整え、磨く」というプロセスである。

3-3.整え、磨く——構成を作り、AIの初稿を自分の言葉に書き直す

 「掘る」で自分の経験や感情を掘り下げ、「選ぶ」でOne BIG Message®を一つに絞った。

 ここまで来れば、AIにスピーチの初稿を作らせることができる。しかし、その前にやることがある。全体の骨格を作らなくてはいけない。

AIに原稿を書かせる前に、三つのサポートメッセージを決める

 One BIG Message®が決まったら、それを支える三つのサポートメッセージを考えたい。

 サポートメッセージとは、「なぜ、そう言えるのか」「なぜ、それが大切なのか」を聞き手に納得してもらうための、

  • 理由や根拠、
  • 体験談、
  • 具体的な提案

である。ここのプロセスで、頭の隅に入れておいてほしいことがある。それは、前の段階で一度捨てたもの、すなわち、メッセージを一つに絞る時に、泣く泣く削ったものを、もう一度検討してみるのも参考になる、ということだ。

 たとえば、3-2で選んだOne BIG Message®は、次のようなものだった。

 「健康を守る時間を大切な人のためにつくる

 これを、次の三つのサポートメッセージで支える。

  1.  1.忙しさを優先して体のサインを無視すると、健康を損なうことがある
  2.  2.自分が倒れると、家族や仕事仲間にも心配や負担をかける
  3.  3.毎朝10分歩くような小さな習慣でも、生活を変える第一歩になる

 一つ目は問題(自分の過去の体験)を示し、二つ目は、健康が自分だけの問題ではなく、大切な人のためであることを伝え、三つ目は具体的な行動を示している。

必ずワンビッグメッセージを支えているものを選ぶ

  • その体験談は、メッセージを伝えるために必要か。
  • そのデータは、聞き手の納得を助けるか。
  • その説明は、聞き手の行動につながるか。

 これらの質問チェックを通して、必要なら残す。直接つながらなければ、どれほど面白い話でも今回は削る。

 たとえば、 「健康を守る時間を大切な人のためにつくる」がOne BIG Message®なら、体調を崩した経験や、家族や同僚への影響、歩き始めて起きた変化は必要である。一方、健康食品の詳しい説明や、複数の運動方法の比較は、興味深くてもワンビッグメッセージをぼかす可能性がある。

 サポートメッセージは、話したいことを三つ自由に並べるものではない。三つのサポートメッセージは、すべてOne BIG Message®を支える必要がある。

「なぜそう言えるのか?」を繰り返す

 サポートメッセージを見つけるときに役立つのが、「なぜそう言えるのか?」という問いである。

 なぜ、健康を守る時間が必要なのか?

 →「仕事をやりすぎて体調を崩したからだ」

 なぜ、仕事をやりすぎて体調を崩したことにこだわるのか?

 →「会社を休み、同僚や家族に迷惑をかけたからだ」

 それをしないために何をすればいいのか、なぜそう思うのか?

 →「毎日の小さな運動。自分自身が、10分ならできたからだ」

 この問いによって、ありきたりの話ではなく、自分のオリジナル体験に根ざした根拠が見えてくる。その途中で、「本当に伝えたかったことは、最初のとは違う」と気づくこともある。それでいい。決して失敗ではない。

 整え、磨くプロセスでは、One BIG Message®とサポートメッセージの関係を見直し、本当に伝えたい形へ研ぎ澄ます作業なのだ。

 さらなる構成の組み方や原稿作成の詳しい方法は、「スピーチのコツとは? 原稿の準備方法から話し方まで詳しく解説」を参考にしてほしい。

AIに初稿を作らせる

 One BIG Message®、三つのサポートメッセージができたら、AIに初稿を作らせよう。

 たとえば、次のように依頼できる。

 「次の内容を使って、仕事が忙しく、自分の健康を後回しにしがちな会社員に向けた3分間のスピーチの初稿を作ってください。

 One BIG Message®:『健康を守る時間を大切な人のためにつくる』

 三つのサポートメッセージ:

  1. 1.仕事を優先して体のサインを無視し、体調を崩した
  2. 2.会社を休み、家族や同僚にも心配と負担をかけた
  3. 3.毎朝10分歩き始め、生活のリズムを取り戻した

 盛り込みたい内容・体験:

・3年前に無理をして、寝込み、1週間欠勤した時、「。。。。。」と同僚のSから励ましのメッセージをもらった。(など、できるだけ詳しく書く)

 オープニングでは聞き手に問いかけ、本論では三つのサポートメッセージを順番に説明してください。クロージングではOne BIG Message®を繰り返し、毎朝10分歩くことから始めるよう呼びかけて、締めくくってください。

 私が話していない出来事や感情は加えないでください。完成原稿ではなく、書き直すための初稿・たたき台として作成してください」

 ここで重要なのは、AIにテーマだけを渡さないことである。

 聞き手は誰か、One BIG Message®、三つのサポートメッセージ、エピソード、自分が感じたこと、最後に促したい行動まで具体的に伝える。そうすれば、AIの初稿は、あなたの意図に近づく。

3-4.届ける——録音・録画を使ってリハーサルする

 原稿の構成を整え、AIに初稿を作らせた。次はいよいよ、その原稿を自分の言葉に直し、聞き手に「届ける」段階である。

 よい原稿ができたからといって、必ずしもよいスピーチになるとは限らない。同じ言葉でも、声の大きさ、話す速さ、間の取り方、表情、姿勢によって、伝わり方は大きく変わるからだ。

AIの言葉を、自分の言葉に戻す

 AIの初稿は、文章として整っていても、話し言葉としては堅すぎることがある。また、同じ内容を繰り返したり、もっともらしいが中身のない表現を加えたりすることもある。

 たとえば、AIが次のように書いたとする。

 「健康とは、周囲の人々との関係性を守る基盤でもあると痛感しました」

 これが自分らしくなければ、次のように書き直す。

 「そのとき初めて気づきました。自分が倒れたら、困るのは自分だけではなかったのです」

 自分の言葉に書き直すとは、難しい言葉を簡単にすることだけではない。実際に口にしたとき、自分の感情と一致する言葉を選ぶことである。

声に出して違和感を見つける

 3-2では、One BIG Message®の候補を声に出し、自分の本音に合っているかを確かめた。この段階では、同じことをスピーチ全体に対して行う。

 原稿を最初から最後まで、実際のスピーチのつもりで声に出して読んでみよう。

 自分の口から自然に出る言葉だろうか。話が急に飛んでいないだろうか。同じ内容を繰り返していないだろうか。One BIG Message®が、三つのサポートメッセージによって、もれなく重なりなく支えられているだろうか。さらに、そのときの感情がよみがえるか、最も伝えたい部分が説明の中に埋もれていないかも確認したい。

 口にしたときに違和感のある言葉には印をつける。息が続かない文は二つに分ける。説明が長ければ削り、話のつながりが不自然なら、言葉や順番を見直す。

 声に出すことは、単なる読み上げ練習ではない。言葉、構成、感情が一つにつながっているかを確かめる編集作業なのである。

違和感をAIに伝え、修正を手伝わせる

 声に出して見つけた違和感は、AIに伝えて、修正を手伝わせることもできる。このやり取りを繰り返すことで、AIにあなたらしい言葉や表現を学習させることにもつながる。

 ただし、「もっとよくしてください」という曖昧な指示では、自分らしい原稿には近づきにくい。違和感のある場所と、その理由を具体的に伝えることが大切である。

  •  「『健康は周囲との関係性を守る基盤です』という表現は、私には堅すぎます。『自分が倒れたら、困るのは自分だけではなかった』という実感が伝わる話し言葉に直してください」

  •  「二つ目から三つ目への移り方が急です。周囲に負担をかけた経験が、歩き始める決意につながったとわかる一文を加えてください」

 AIは、このような具体的な修正を得意としている。しかし、どこに違和感があり、どの感情を強く伝えたいのかを判断するのは、あなた自身である。

録音して「声の伝わり方」を確認する

 原稿の違和感を取り除いたら、次はスマートフォンで録音し、本番のつもりで最初から最後まで話してみよう。

 録音を聞くときは、次の点を確認する。

  •  ・声の大きさは十分か
  •  ・話す速さは適切か
  •  ・言葉がはっきり聞こえるか
  •  ・「えー」「あのー」などのフィラーワードが多すぎないか
  •  ・大切な言葉の前後に間があるか
  •  ・声に強弱や変化があるか
  •  ・One BIG Message®が印象に残るか

 たとえば、「健康を守る時間を大切な人のためにつくる」と一息で平坦に話すよりも、

 「健康を守る時間を

 (ポーズ:少し間をおいて)

 「大切な人のためにつくる

 と続ける方が、「大切な人のため」という言葉が強く届く。

 録音は、話し手としてではなく、聞き手の立場から自分のスピーチを確認するための道具なのだ。

録画して「見え方」を確認する

 声の確認ができたら、次は動画を撮影してみよう。

 スマートフォンを聞き手の目線に近い高さに置き、本番で立って話すなら、録画するときも立って話す。

 録画では、次の点を確認する。

  •  ・聞き手を見ているか。原稿ばかりを見ていないか(アイコンタクト)
  •  ・表情が話の内容に合っているか
  •  ・姿勢が安定し、体が左右に揺れていないか、手の動きが自然か
  •  ・大切な場面で、表情や動きに変化をつけているか

 たとえば、家族や同僚に迷惑をかけた場面を笑顔で話したら、聞き手は混乱する。また、「毎朝10分歩くことから始めた」と前向きな変化を語る場面では、表情や声も明るくなるのが自然である。

 大切なのは、表情や動きを大げさに演じることではない。伝えたい内容と、声、表情、姿勢、動きが一致していて、自分らしさを出すことである。

最初から全部直そうとしない

 初めて自分の録音や録画を確認すると、気になるところが次々と見つかるかもしれない。私の場合、顔から火が出るかと思うくらい恥ずかしかった。

 しかし、一度にすべてを直そうとしないこと。そうすると、かえって話し方が不自然になる。まずは、最も伝わり方を妨げていると感じる点から一つひとつ直していこう。

 話す速度が速すぎるなら、次は速度だけを意識する。One BIG Message®が埋もれているなら、その前後に間を取る。目線が下がるなら、顔を上げる練習をする。

 一つ直して、もう一度録音・録画する。そして、改善したかを確認する。これを繰り返す方が、着実に上達できる。

原稿ではなく、「話の流れ」と「決めの言葉」を身につける

 スピーチとは、原稿を読むことではない。また、一字一句を暗記して話すことでもない。

 原稿を丸暗記すると、一つの言葉を忘れただけで、その後が出てこなくなることがある。また、間違えないことに意識が向き、聞き手に語りかける余裕も失われやすい。

 覚えるべきなのは、文章そのものではなく、「話の流れ」と一部の「決めセリフ」(例えば、ワンビッグメッセージ)である。

 今回の例なら、次の流れを頭に入れておく。

  1.  1.仕事をやりすぎて体調を崩した
  2.  2.家族や同僚に心配と負担をかけた
  3.  3.毎朝10分歩くことから始めた
  4.  4.健康を守る時間を大切な人のためにつくろう

 この流れがわかっていれば、一部の言葉が原稿と違っても、話を続けられる。むしろ、その場で自然に出てきた言葉の方が、聞き手に伝わることもある。

 また、オープニングがスムーズに出来ると、その後も調子良く流れるもの。オープニングだけは、どよまず、すっきりと話せるように練習する。これらは、重要なので、本番で、万が一、頭が真っ白になった時に備えて、メモ書きを手元に置いておくと良いだろう。

時間を測り、不要な部分を削る

 リハーサルでは、必ず時間も測ろう。

 黙読したときには短く感じた原稿でも、聞き手を見て、間を取りながら話すと、予想以上に時間がかかる。制限時間を超えたからといって、早口で話してはいけない。One BIG Message®を支えていない説明、同じ内容を繰り返している部分、細かすぎる背景などを削ろう。反対に、時間が余っても、情報を無理に加える必要はない。短くてもOne BIG Message®が明確に伝わる方が、強いスピーチになる。

完璧に話すことより、聞き手に届けること

 リハーサルを重ねるほど、自分の欠点ばかりが気になるかもしれない。しかし、録音・録画の目的は、完璧な話し手になることではない。

 少し言い間違えても、言葉に詰まっても、One BIG Message®が聞き手に届けば、スピーチの目的は果たせる。最後のリハーサルでは、細かな間違いを探すのをやめ、目の前に聞き手がいるつもりで話してみよう。

  •  誰に、何を伝えたいのか。
  •  なぜ、その人に伝えたいのか。
  •  聞き終わった後、どのような気持ちになり、何を始めてほしいのか。

 そこに意識を戻せば、声や表情は自然に変わってくる。

 「掘る」で自分の経験と感情を見つけ、「選ぶ」でOne BIG Message®を決め、「整え、磨く」で構成と初稿をつくった。そして「届ける」では、声に出し、録音・録画を使いながら、聞き手の立場に立って伝わり方を確かめる。

 話す。確認する。一つ直す。そして、もう一度話す。

 この積み重ねによって、AIが作った初稿は、あなたの言葉と感情がこもった、人の心を動かすスピーチへと変わっていくのである。

AIに任せるのではなく、AIとともに「自分の言葉」を磨こう

 ここまで、AIを活用してスピーチを作る4つのプロセスを紹介してきた。

  1.  「掘る」で、自分の経験や感情の中に眠る砂金を見つける。
  2.  「選ぶ」で、最も伝えたいOne BIG Message®を決める。
  3.  「整え、磨く」で、サポートメッセージを組み立て、AIの初稿を自分の言葉に書き直す。
  4.  そして「届ける」で、録音・録画を使い、聞き手の心に伝わる話し方へと仕上げる。

 AIは、質問を投げかけ、考えを整理し、言葉や構成を整えてくれる、とても便利な道具である。しかし、あなたの代わりに人生を経験することも、聞き手の前に立つこともできない。

 だからこそ、この記事で最も伝えたいことは、次の一言である。

 AIに丸投げしてはいけない。AIとの対話を通して自分の「砂金」を見つけ、自分の手で磨くのである。

 聞き手の心を動かすのは、AIが作った完璧な文章ではない。あなた自身が経験したこと、そこから得た気づき、そして「このことを、どうしても伝えたい」という思いである。AIは、その思いを見つけ、形にする手助けをしてくれる存在なのだ。

 ただし、AIを効果的に使うためには、話し手自身にも「何を残し、何を削るのか」「どの言葉なら聞き手に届くのか」を判断する力が必要になる。その判断基準となるのが、スピーチの基礎である。

 ブレイクスルー基礎コースでは、聞き手を中心に考える方法、One BIG Message®の決め方、それを支える構成の作り方など、人の心に届くスピーチの基本を体系的に学ぶことができる。知識を得るだけではなく、実際に考え、話し、フィードバックを受けながら、自分の伝える力を磨いていく講座である。

 スピーチの基礎を身につければ、AIの提案に振り回されることはない。数多くの候補の中から、自分と聞き手にふさわしいものを選び、自分らしい言葉へと変えられるようになる。

 「自分には、人に話せるような特別な経験などない」と思っている人もいるかもしれない。しかし、砂金は、特別な人だけが持っているものではない。あなたが悩み、挑戦し、失敗し、そこから学んできた一つひとつの経験の中に、すでに眠っている。

 さあ、AIに答えを作ってもらうのではなく、あなたの中にある答えを一緒に探してもらおう。そして、見つけた砂金を自分の手で磨き、あなたにしかできないスピーチとして、聞き手に届けてほしい。

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