「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。
現在、かつてないパンデミックが世界中を脅かし、各国、各都市、各業界でのリーダーたちは、刻一刻と状況が変化する中、大胆かつ的確な判断を下す必要がある厳しい局面に立たされています。
そんなリーダーたちが行った、お手本となる危機対応スピーチを5つ取り上げ、解説します。
エトス・パトス・ロゴスが揃ったニューヨークのアンドリュー・クオモ州知事
まずはアメリカ中で人気が急上昇している、クオモNY州知事をまず最初に取り上げたいと思います。
クオモ州知事は、世界の感染震源地ともなっているニューヨークから、毎日定例記者会見を行っています。その会見は、ニューヨークやその近郊の住民たちだけでなく、全米から注目されており、支持率の急上昇から、大統領候補としても浮上しています。民主党候補としての座を脅かされるかもしれないジョー・バイデン前副大統領でさえ、クオモ州知事のこの定例記者会見を、「リーダーシップの授業だ」と讃えているほどです。
このクオモ州知事の連日の会見を見ていると、人気急上昇の背景には、エトス・パトス・ロゴスが見事に揃ったコミュニケーションにある、と言えます。
- 何事にも動じない冷静さと一貫性（エトス）
- 真摯にNY州民と向き合う、人間味溢れるメッセージ（パトス）
- データに基づいた的確な判断、論理性と透明性（ロゴス）
「自分の職務を非常に重く受け止めている。言い訳はしない。失敗があれば、私の失敗だ。事態が崩壊したりうまくいかなかったりすれば、私の責任だ。毎日死者数を見ながら責任を痛感している」
このような歴史的非常事態時にも、冷静沈着に、責任を丸ごととる、と断言するリーダーほど、信頼と倫理性の高さ（エトス）を感じることはないでしょう。
また、
｢弟、クリス・クオモ（CNNアンカー）が、新型コロナウイルス検査で陽性となった｣
こう語ったときも、表情一つ変えず、取り乱すことはありませんでした。
一方で、この冷静沈着な中でもクオモ州知事の人間味は随所にあふれており、それが、アメリカ国民からの信頼と共感をさらに高めている要因になっています。
「我々はタフだ。ニューヨーク・タフ、だ。この町は良い意味で私たちをタフにしてくれる。我々はこれを乗り切る、なぜなら私はニューヨークを愛していて、ニューヨークはあなたたちすべてを愛しているからだ。黒人も白人も褐色人種もアジア人も、背の低い人も高い人もゲイもストレートも、ニューヨークはみんなを愛している。だから私はニューヨークを愛しているのだ。長い一日でも最後には愛が勝つ。必ず。だからウイルスにも必ず勝つ。」
こう語ったクオモ州知事の言葉に、アメリカ全土が感動し、涙を流しました。この上なく誠実で情熱的なパトスです。
更にロゴスにも優れているのは言うまでもありません。医師、米連邦捜査局（FBI）、米疾病対策センター（CDC）などの専門家と毎日話したうえで、感染者数や検査数、入院患者数、集中治療室にいる人数まで詳細なデータを開示し、的確な情報に基づいて、感染拡大の推定をしている、とクオモ州知事は語ります。深刻な状況も率直に説得力を持って説明できるだけの基盤がきちんとあることがわかります。
エトス・パトス・ロゴスがここまでしっかり揃っていると、やはり説得力のある頼れるリーダーとしての印象が強力になります。
