”信元夏代のスピーチ術” 編集長、プロフェッショナルスピーカーの 信元です。
スピーチを覚えるとき、こんなことをした経験はありませんか?
・ちょっと言いにくい一文を何度も何度も繰り返して練習した
・パソコンの画面を見ながら、毎朝つぶやくように練習した
・鏡の前で独り言のようにブツブツ言いながら家の中を歩き回った
実は、こうした「丸暗記」的な練習法は、スピーチの醍醐味をすっかり奪ってしまいがちです。
確かにセリフを一字一句間違えずに言えるかもしれませんが、聴衆にとって「心を動かす体験」にはなりにくいのです。
むしろ、本番で上手くいかなくなる危険さえあるのです。
丸暗記が本番で危険な理由
小学生の詩の暗唱や国歌斉唱のように、完全暗記が必要な場面はあります。
でも、あなたのスピーチが「本当に聴衆の心を動かす体験」になるためには、その場で初めて言葉が生まれるような“臨場感”が必要です。
ところが丸暗記で作ったスピーチは、どうしても“再生ボタンを押しただけ”のように聴こえてしまいます。
そうなると、聴衆は「これは私たちのためのライブ体験なんだ」という感覚を失い、置いてけぼりになってしまうのです。
しかも、一度流れが途切れると、次の一文が思い出せずにパニックになりやすい。
つまり丸暗記は、聴衆だけでなく、あなた自身にとっても危険な練習法なのです。
丸暗記と「学び」の違い
「覚える」と「学ぶ」は似ているようで大きく違います。
「学ぶ」とは、スピーチを身体の一部にまで落とし込み、どんなアクシデントが起きてもすぐに立て直せるようになること。
そして、その場で生まれたような言葉で聴衆と対話し、心を動かす力を持つことです。
その域にまで到達するには、実は綿密なリハーサルが必要です。
舞台役者さんを想像してみてください。彼らは台本をしっかりと”暗記”はしますが、ただ「覚える」のではなく、「学び」、自分の血肉にまで落とし込んでいるからこそ、台本のセリフから外れてアドリブを聞かせたとしても、その役、そのシーンから外れることなく、初めてその場に居合わせたような錯覚を何度でも起こすことができるのです。
特にこなれたスピーカーや、登壇機会の多い経営層の方から多く聞かれるのは、
「原稿はしっかり作ったから、あとは練習すれば大丈夫」
「リハーサルをやりすぎると、逆に不自然になりそう」
ということです。
でも実は、それはリハーサルに対する誤解です。
リハーサルとは、原稿を覚える作業ではなく、「自分らしく」「聴衆とつながる」ための“仕込み”です。
今日は、私が、選考に合格したプロスピーカーだけが入学できるHeroic Public Speakingで学び、今でも実践している「7ステップ・リハーサル・プロトコル」をご紹介します。
これを取り入れれば、緊張に左右されず、自由に、自然に、自信をもって伝えることができるようになります。
Heroic Public Speakingとリハーサル概要についてはこちらをご覧ください:
本当に聴衆の心を動かすスピーチとは、単なるセリフの暗唱ではなく、あなたの“想い”そのものが言葉になる瞬間です。 世界のあらゆる業界のトップたちが集結するプロスピーカー道場、HPSで学んだ者しか知らない、リハーサル7つのステップを皆さんに公開します。
この記事の内容
ステップ①:テーブルリード(Table Read)
原稿を「誰かに話すように読む」ことで“ことばを口になじませる”
まず最初にやるべきは、「読む」ことです。役者さんたちも必ず最初は、テーブルを囲んで座り、台本の読み合わせをするところから始まります。
ただし、これは独り言ではなく、「誰かに話しかけるように」読むのがポイント。
声に出して読むことで、
-
自分の言いづらい言葉
-
意味が伝わりにくい言い回し
-
書き言葉っぽさ
に気づくことができます。
ここではまだ“演じる”必要はありません。自然体でOKです。
🎯 ワンポイント
読みながら「ここはちょっと口がもつれるな」と思ったところには印を。リライト候補になります。
ステップ②:コンテンツマッピング(Content Mapping)
「間」と「強調」で、聞き手の理解を助ける
次に、スピーチの設計図を作ります。
-
Pause(間):聞き手に情報を消化させる“消化の時間”です。特に大切なメッセージの前後、話題が切り替わる場面には、意識的に「間」を入れます。
-
Operative Words(オペラティブワード):特に強調したいキーワードに印をつけましょう。全部の単語を均等に読むと平坦に聞こえてしまいます。
🎯 ワンポイント
強調したい言葉を赤、Pauseを斜線で書き込むなど、自分なりに“話す地図”を可視化すると、構成がグッと明確になります。
ステップ③:ブロッキング&ステージング(Blocking & Staging)
動きを設計し、言葉と身体の一貫性をつくる
ステージ上での“動き”は、意図せずにすると逆効果。
話の流れと一致した動きを設計すると、視覚的なわかりやすさと感情の深まりを生み出せます。
-
重要なメッセージは中央で止まって届ける
-
過去→未来へ話を進めるときは、ステージの左→右へ移動(時間軸を意識)
-
登場人物が変わるなら、体の向きを変える(「彼女はこう言った」「私はこう思った」など)
🎯 ワンポイント
動きは“感情”と連動しているかがカギ。焦っている場面では早足、安心感を与えたいなら静止など、動作にも感情を込めましょう。
ステップ④:インプロ&リライト(Improv & Rewrite)
通して話してみる中で、原稿を“ブラッシュアップ”する
ここではじめて、フルで話してみます(=フルアウトリハーサル)。
録音や録画を必ず行い、「自然に出てきた表現」をチェックしましょう。
「この言い回し、原稿よりも良かったな」
「ここ、意外と噛みやすいな」
「この間(ま)は効いてるな」
など、話す中で生まれる“発見”を原稿に反映していきます。
🎯 ワンポイント
完璧に話すことが目的ではなく、「より自然で、伝わる言葉にアップデートする」作業だと捉えましょう。
ステップ⑤:インバイテッド・リハーサル(Invited Rehearsal)
信頼できる人からフィードバックをもらう
ここでは信頼できる仲間やコーチに聞いてもらいましょう。ブレイクスルー・スピーキングの個人コーチングを活用していただくのもおすすめです。
ただし、フィードバックの依頼方法がポイント。
✔「声のトーンについて意見ください」
✔「このストーリー、伝わってる?」
✔「冒頭の入り、どう感じましたか?」
など、“欲しいフィードバックの種類”を明確に伝えることで、安心して受け取ることができます。
ステップ⑥:オープン・リハーサル(Open Rehearsal)
本番に近い状況で、“反応”を観察する
より多くの人の前で、ほぼ本番のように話してみます。
ここではフィードバックを求めず、「観察」に徹しましょう。
-
笑いが起きた場所は?
-
反応が薄かったパートは?
-
身を乗り出した人がいた瞬間は?
この“空気感”を肌で感じることで、最後の微調整ができます。
ステップ⑦:ドレス&テック(Dress & Tech)
当日の服装・靴・機材を含めて「総仕上げ」する
本番さながらに衣装を着て、使用予定のマイク、スライド、リモコンなどを使って通しリハーサルを行います。
-
靴が滑らないか
-
マイクが髪や服に擦れてノイズが出ないか
-
スライド操作にストレスはないか
🎯 ワンポイント
ここで「ちょっとした違和感」に気づいておくと、当日の安心感が格段に違います。
リハーサルは「自由に話すための練習」
リハーサルは、“覚えるための作業”ではありません。
むしろ、覚えなくても伝わる“余裕”をつくるプロセスです。
この7ステップを経ることで、あなたのスピーチは、単なる発表ではなく、“聴き手とつながる体験”になります。
本当に聴衆の心を動かすスピーチとは、単なるセリフの暗唱ではなく、あなたの“想い”そのものが言葉になる瞬間です。
今回紹介した7つのステップを通じて、あなたのスピーチが“あなた自身のもの”になれば、本番での一言一句が、聴衆の心を揺さぶる力になります。
スピーチを「暗記する」のではなく、「スピーチを生きる」。
この意識で、ぜひチャレンジしてみてくださいね。