自民党総裁選決選投票スピーチの明暗を分けたのは、ずばり、この1点

「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。

2024年9月27日、自民党総裁選の決選投票が行われました。

決選投票に残った石破茂氏と高市早苗氏が、それぞれ最後のスピーチを行いましたが、この明暗を分けたのはずばり、1点に絞られます。

何だったのでしょうか。まずは両者のスピーチで際立っていた違いを挙げながら解析を行っていきます。

*本記事は、政治的見解や公約内容、勝敗の理由の分析を行うものではなく、あくまでスピーチの分析を行っているものです。

真顔一徹だがボーカルバラエティー豊かな石破氏 v.s. 笑顔で呼びかける高市氏

まず大きな違いが見られたのは、表情です。石破氏のスピーチは5分強、高市氏のスピーチは、約7分でしたが、石破氏は5分強の間、終始表情が変わらず、真顔を通しており、芯の強さが演出されていました。一方の高市氏は、真剣な表情の合間に頻繁に笑顔が見られ、信頼感と同時に親しみやすさが演出されていました。

石破氏は、表情のバラエティーはなかったものの、ボーカルバラエティーには優れていました。冒頭、能登半島に言及した際のトーンは同情的なトーン、そして、60年前の地元の夏祭りのストーリーを話した際は柔らかなトーン、そして後半、意思表明を語っていた部分では力強いトーンで、最後のクロージングではその力強さがクレッシェンドのようにどんどん高まっていきました。

高市氏の声のトーンは、全体的にほぼ安定したトーンが貫かれました。その代わり、”I(私)”主語が多かった石破氏に対し、高市氏は、”9人の候補者たちの想いは一つだった”、と”We(私たち)”を強調し、また、”支えていこうじゃないですか”、”応援をしていこうじゃないですか”、”力を合わせていこうじゃないですか”、など、聞き手に直接呼びかける場面も見られるなど、聞き手との一体感を演出する効果が見られました。

ストーリーを語った石破氏 v.s. お礼に時間を割いた高市氏

高市氏は、冒頭で、「女性の私が決選投票へ進んだのは、自民党にとっても日本にとっても歴史的なこと」と、石破氏は持っていない競争優位性を冒頭から印象づけて一歩抜きん出よう、という戦略が見られましたが、その後、それを支えてくれた方々へのお礼、岸田総理へのお礼、歴代の総裁へのお礼、9人の候補者たちとその陣営へのお礼…と、お礼に長い時間を割いていました。その時間を計ってみたところ、7分の演説中、なんと約5分を「お礼」に咲いていたことが分かりました。これは、ブレイクスルーメソッドで言うところの、「非礼なる礼儀」に当たります。

「非礼なる礼儀」とは、礼儀正しく敬意を払おうという意図とは裏腹に、聞き手にとってはどうでも良い内容となってしまい、聞き手のことをあまり考えていない内容(ゆえに非礼)になってしまっている、という状態を指します。

7分の演説のうち、約7割を「非礼なる礼儀」に使ってしまっていたわけです。致命的な構成ミスと言えるでしょう。その結果、下記で指摘する「ワンビッグメッセージ®」を前面に押し出すための時間が十分に取れず、メッセージ性を大きく欠いてしまいました。ここが高市氏の演説の命取りになってしまった大きな要因でしょう。

一方の石破氏は構成コントラストが巧みでした。構成コントラスト、とは、構成上、異なる要素のコンテンツを多様に組み合わせて、コントラストを出していることを言います。

ざっくりとですが、石破氏のスピーチ構成は下記のようになっていました:

  • 能登半島の災害へのお見舞い・お礼・岸田氏への慰労のメッセージ:約1分
  • 「至らぬ者」:約1分
  • ストーリー:約1分
  • 意思表明:約2分

まず、「至らぬ者」と語った箇所ですが、下記のように述べていました:

私は至らぬものでありまして、議員生活38年になります。
多くの足らざるところがあり、多くの方々の気持ちを傷つけたり、いろんな嫌な思いをされたりされた方が多かったかと思います。自らの至らぬ点を心からお詫びを申し上げます。とともに、この総裁選挙を通じまして、多くのことを学ばせていただきました。
ともに戦いました多くの候補者の皆様方から、多くの教えをいただきました。政治家としての生きざまも教えていただきました。

決選投票という重要な場で、「至らぬ者」という、英語で言えばVulnerability、日本語に訳すと、弱さ、脆さ、脆弱性,などと訳せますが、これを語るというのは、実は「強さ」が必要なことなのです。

VulnerabilityのTEDトークが有名なBrenee Brownは、次のように語っています:

“Vulnerability sounds like truth and feels like courage. Truth and courage aren’t always comfortable, but they’re never weakness.” 
(脆弱性は真実のように響き、勇気のように感じられる。真実と勇気はいつも快適とは限らないが、決して弱さではない。)
– Brenee Brown

石破氏の「至らぬ者」という言及は、まさに、Vulnerabilityをさらけ出す勇気、強さ、と言えましょう。ここで共感を感じた聞き手は多かったのではないでしょうか。

更に石破氏は、1分ほどの短いストーリーで、更に共感度を高めます。地元の夏祭りの光景のストーリーです。

立候補への決意を表明しましたときに、私は育ちました地元の神社の前で出馬表明をいたしました。暑い日でした。もう今から60年も前のことになります。夏休みでした。そこで夏祭りがありました。今ほど豊かではなかったけれど、そこには大勢の人の笑顔がありました。今ほど豊かではなかったかもしれないけれど、大勢の人が幸せそうでした。もう一度そういう日本を取り戻したいと思っています。

お互いが悪口を言い合ったり、足を引っ張ったりするのではなく、ともに助け合い、悲しい思いでいる人、苦しい思いでいる人、そういう人たちを助け合うような、そういう日本にしてまいりたいと思っております。

ほんの1分程度ではありますが、「戦略的ストーリー6つのC(The 6C’s of Strategic Storytelling®)」の要素が含まれていました。

Character: 石破氏本人、夏祭りに集まる大勢の人

Circumstance:今ほど豊かではないが大勢の人が笑顔

Conflict:そういう日本を取り戻したい、というコメントに、「今の日本には笑顔がない」というコンフリクトが見受けられる

Cure:取り戻したい、の主語は石破氏。つまり、石破氏が総裁になること、がCure、と見て取れます

Change:大勢の人が幸せそうな日本

Carryout:人々が助け合うような日本にしたい、という意思表明

 

ストーリーの詳細、ストーリーがもたらす力についてはこちらをご参照ください:

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ピラミッド構造で明確なメッセージを組み立てた石破氏 v.s. ワンビッグメッセージ® にズレが見られた高市氏

ストーリーで共感を得た後は、「ピラミッド構造」と呼ばれるロジックで意思表明を強固に印象付けているのが、石破氏の演説を優勢なものとした大きな要因です。

ピラミッド構造から成るロジックの作り方についてはこちらの記事をご参照ください:

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石破氏の演説のワンビッグメッセージ®は、「日本を守る」です。そしてそのワンビッグメッセージ®を支える3つのメインポイントは、「国民を守る」、「地方を守る」、「ルールを守る」です。このワンビッグメッセージ®と3つのメインポイントが、見事に「ピラミッド構造」となって、説得力を増しています。

日本を守りたい。(ワンビッグメッセージ®)
国民を守りたい。(メインポイント①)地方を守りたい。(メインポイント②)そしてルールを守る自民党でありたい(メインポイント③)。そのように思い、訴えてまいりました。
(ワンビッグメッセージ®)日本を守りたいと思います。この総裁選挙の間も様々なことがございました。今のままでいいと私は全く思っておりません。
(メインポイント①)安全保障に長く携わってまいりました。国を守ってまいります。そして、国民を守ってまいります。1人1人が幸せを実感できる。安心と安全を実感できる。もう一度1人1人に笑顔が戻ってくる。そういう日本を必ず作ってまいります。
(メインポイント②)地方を守っていかなければなりません。どんどんと人口が減っていく、そういう地方であってはなりません。地方を取り戻してまいります。
(メインポイント③)そして、ルールを守る自民党でなければなりません。ルールを守る自由民主党、そして国民を信じる自由民主党でなければなりません。

石破氏の演説は、論理構成が実に分かりやすく、かつしっかりとしています。また、前述の通り、5分の演説の中で、

 

石破氏、高市氏、両者の自民党総裁選決選投票スピーチの明暗を分けたのは、ずばり、「巧みな構成」に絞り込むことができるでしょう。

 

 

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