言葉の設計が、希望と行動をつないだ、マムダニ新NY市長の就任演説

信元夏代のスピーチ術” 編集長、プロフェッショナルスピーカーの 信元です。

2026年1月1日、ゾハラン・マムダニ氏がニューヨーク市長として公式に就任し、マイナス気温の寒空の中、ニューヨーク・シティー・ホール前で就任式が行われ、マムダニ新市長は24分ほどの就任演説を行いました。

34歳と若く、初のムスリム市長として歴史的な節目でもあるこの瞬間は、一人のニューヨーカーとして、ニューヨーカーたちと”共に”新しい政治を行っていくと宣言するスピーチでした。

この記事では、ブレイクスルーメソッドに基づき、この演説がどのように人々の心を掴み、行動へとつながる設計になっているかを読み解いていきます。

 

マムダニ氏の2025年11月4日の当選演説の分析はこちらから➡ 

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「ニューヨーカーだからこそ語れる詳細」が生んだ一体感

― KISSの法則で描かれた“生きているニューヨーク”

マムダニ氏の就任演説で特筆すべき点のひとつが、ニューヨークを構成する人々の描き方の圧倒的な具体性です。

彼は「多様性」「包摂」といった抽象語で済ませることをせず、ニューヨーカーでなければ即座に思い浮かばない地名やコミュニティ、さらにはブルーカラーの人々の生活感を非常に具体的に次々と挙げていきます。

たとえば、次の一節です。

They will be Russian Jewish immigrants in Brighton Beach, Italians in Rossville, and Irish families in Woodhaven — many of whom came here with nothing but a dream of a better life…

They will be young people in cramped Marble Hill apartments where the walls shake when the subway passes.

They will be Black homeowners in St. Albans

They will be Palestinian New Yorkers in Bay Ridge
彼らは、ブライトン・ビーチに暮らすロシア系ユダヤ人の移民であり、ロスヴィルに住むイタリア系住民であり、ウッドヘブンのアイリッシュ系の家族です。その多くは、より良い人生への夢だけを胸に、この街にやって来ました。彼らは、地下鉄が通るたびに壁が揺れるほど手狭なマーブル・ヒルのアパートに暮らす若者たちです。彼らは、長年にわたる低賃金労働とレッドライニングを乗り越え、自分たちの家を手にしたセント・オールバンズの黒人の住宅所有者たちです。そして彼らは、ベイ・リッジに暮らすパレスチナ系ニューヨーカーです。

具体的な描写がされることに、会場からははっきりとした歓声が何度も上がりました。

それは賛同というよりも、「分かってくれている」、「この人は、私たちの街を本当に知っている」、という反応です。

なぜここまで強く響いたのか?

それは、ブレイクスルー・メソッドで言うところの、KISSの法則が徹底されていたからです。

― KISS(Keep It Simple, Specific)の徹底

ブレイクスルーメソッドでは、人の感情を動かすのは“具体性”であると考えます。

マムダニ氏がここで使っているのは、上記の引用に太字や下線で示している通り、まさにKISSの法則(Keep It Simple, Specific)、つまり、シンプルかつ具体的に、という法則 です。

どれも、

・教科書的ではなく

・観光的でもなく

・実際に「そこに住んでいる人の景色」

です。

抽象的な「多様性」ではなく、具体的な通り、揺れる壁、労働の歴史、食べ物や匂いまで想像できる生活が浮かびます。

だからこそ、聴衆は頭で理解する前に、体で反応します。歓声が上がったのは、そのためです。

「ニューヨーカー」という言葉の反復が意味するもの

もうひとつ重要なのは、マムダニ氏が “New Yorkers” という言葉を何度も繰り返している点です。

  • 移民であっても

  • 人種や宗教が違っても

  • 貧しくても、裕福でも

まずは New Yorker である、という前提を揺るがせない。

これは単なる呼び方ではありません。アイデンティティの再定義です。

これは、ラベルを剥がして、共通のフレームを置く技術である、ともいえるでしょう。

  • Palestinian → New Yorker

  • Black homeowner → New Yorker

  • Russian Jewish immigrant → New Yorker

そして、マムダニ氏自身にも当てはまる、

  • Muslim → New Yorker

そうすることで、

「誰かの話」という他人事、ではなく「私たち全員の話」という自分事、に変わり、「身近な市長」という印象が決定的になっています。

マムダニ氏は、抽象的な理想を語る政治家ではなく、街の細部まで知っている“隣人”なのです。

  • 地名の選び方

  • 人種と生活の組み合わせ

  • 痛みと誇りの両方を含めた描写

すべてをKISSに表現しているマムダニ氏の手法は、これらの描写は装飾ではなく、信頼を生むための設計でした。

だからマムダニ氏は、「新しい市長」ではなく、「ずっとこの街にいたニューヨーカー」、だからこそ、「この街を上から見ていない」、という、共感を引き出すスピーチになっているのです。

アダムス前市長との不一致を、ユーモアで受け止めるという高度な選択

ー意見の違いを「なかったこと」にしない勇気

更に、前半でひときわ印象的だったのが、短いながらもエリック・アダムス前市長との関係性に触れた場面です。

両者の間には、政策・価値観・政治スタイルにおいて、少なからぬ不一致がありました。それは、ニューヨーク市民なら誰もが知っている事実です。

そのアダムス市長も、就任式に出席していました。

通常ならば、あえて意見の不一致には触れない、あるいは、形式的なお礼だけで流す、という方法をとるでしょうが、マムダニ氏はそのいづれも選びませんでした。

彼はまず、意見の違いがあったことを前提として受け止めた上で、それにあえて触れ、ユーモアに変換します。

We’ve had our share of disagreements, but I will always be touched that he chose me as the mayor he’d most want to be trapped with on an elevator.(意見の違いはたくさんありました。でも、エレベーターに閉じ込められるなら私を選んだと言ってくれたことには、正直、心を打たれました。)

ここが秀逸なのは、不一致を否定も、美化もしていない点です。

そしてその不一致を、

「エレベーターに閉じ込められるなら誰と一緒がいいか」

という、極めて日常的で、少し可笑しみのある比喩に変えています。

これによって、

  • 政治的対立

  • 人と人との関係性

へと、フレームが切り替わります。フレーム転換による緊張の解除です。

そして、ここにユーモアを使うことで、 

  • 皮肉でもない

  • 揶揄でもない

  • 勝ち誇った笑いでもない

むしろ、

  • 違いがあることを前提に、それでも一緒に街を背負ってきた、という余裕

がにじみ出ています。

この アダムス 前市長への言及は、一見すると小さなエピソードに見えるかもしれません。

しかし実際には、

  • 分断ではなく包摂

  • 排除ではなく連続性

  • 対立ではなく協働

という、就任演説全体の価値観を、最も短い形で体現している場面でもあるのではないでしょうか。

だからこそ、聴衆は笑い、同時に「この市長なら大丈夫かもしれない」と感じる。

ユーモアとは、笑わせるための技術ではなく、人間関係の距離を縮め、信頼を生むための技術なのだと、改めて教えてくれる一幕でした。

 

マムダニ氏の就任演説は、具体的な生活に落としこまれた共感の渦を起こし、未来への扉を市民と”共に”開いていく、とうメッセージを実現した言葉の設計がされていました。

このような言葉の設計は、これからの時代のリーダーシップスピーチのひとつのモデルになるのではないでしょうか。

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