ミシェル・オバマの民主党大会2020でのスピーチ分析

「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。

11月3日に行われるアメリカ大統領選に向けて、候補者を正式に指名する民主党全国大会が8月17日に初日を迎えました。

その初日の最後に登場したミシェル・オバマのスピーチが話題になっています。

早速、ブレイクスルーメソッドに基づいて分析していきましょう。

記憶に残る”KISS”なフレーズ

ちょうど4年前の2016年民主党大会の際にミシェルが行ったスピーチの中で、このフレーズが話題になりました。

“When they go low, we go high”(彼らが低俗なら、私たちは気高くあろう)

この名言は、新聞のヘッドラインにもなったほどです。

そして今回の民主党大会でも、同じフレーズを再起用し、このコンセプトの重要性を再度国民に強く訴えかけました。

更に、メッセージの一貫性を示すことで、(日々態度やコメントが変わる現アメリカ大統領と反して)変わらぬ信念を持っている、という信頼性も更に高めることに成功しています。

ミッシェル・オバマは、政治的、経済的なチャレンジに加え、パンデミックという、いまだかつてないチャレンジに直面している米国民たちに向けて、

“Going high is the only thing that works”

つまり、気高くあることが、唯一の道である、と再度強調しました。

 

相手に刺さるメッセージづくりは、思いつきでは実現できません。

さらに言うならば、ハイレベルな単語を並べて長々と言葉を尽くすことでもありません。

徹底的に考え抜き、徹底的に削ぎ落とした先に、ようやく、印象に強く残るメッセージが出来上がります。

これが、「KISS」の法則、です。

通常、KISSとは、「Keep It Simple Stupid/Short」、つまり、馬鹿でも分かるほどシンプルに短く言おう、という意味でつかわれるのですが、ブレイクスルーメソッドでは、「Keep It Simple Specific」、つまり、「シンプルかつ具体的に」と教えています。

たとえ5歳児が聞いたとしても分かるレベルの簡単な単語で、かつ、具体的に、頭の中に絵が浮かぶように単語を紡いでいくのです。

だからこそ、メッセージが相手の心に強い印象として残るのです。

もし難しすぎる単語だったり長すぎるフレーズだったりしたら、人は覚えられないどころか、後々思い出すことも難しいことでしょう。

“When they go low, we go high”

はまさに、KISSの法則に当てはまっていて、非常に印象強いフレーズになっています。

 

パワフルな非言語メッセージ

もし、ミッシェル・オバマのスピーチのすばらしさをたった1つだけ挙げなければいけないとしたら、私は迷いなく、彼女のデリバリー力を挙げるでしょう。

皆さんは、メラビアンの法則、をご存じでしょうか?
矛盾したメッセージが発せられたときの人の受けとめ方について、人の行動が他人にどのように影響を及ぼすかを判断する研究を行ったもので、アルバート・メラビアン氏によると、感情や態度について矛盾したメッセージが発せられたとき、人の行動が他人にどのように影響を及ぼすかというと、話の内容などの言語情報が7%、口調や話の早さなどの聴覚情報が38%、見た目やボディーランゲージ、表情などの視覚情報が55%の割合でした。この割合から「7-38-55のルール」とも言われています。

つまり、発する言語メッセージそのものも重要なのですが、それをデリバリーする段階に至った時、どのような伝え方をするのか、によって、相手に与える影響が大きく変わってくる、ということです。

もし、「あなたのそのドレス、素敵ですね!」という言語メッセージを、目を輝かせ、感情をこめて伝えたならば、相手は素直に喜ぶでしょう。一方で、全く同じメッセージを、目線をそらし、声のトーンを下げ、無表情で、あるいは鼻で笑いながら伝えたらどうでしょう。相手はきっと、心にもないことを言われた、あるいは、馬鹿にされているという受け止め方をすることでしょう。

ミッシェル・オバマのデリバリースキルには、オーセンティックな感情がしっかり込められています。カメラ越しであっても、対面であっても、しっかりとカメラと、あるいは聴衆と目線を合わせ、発する言葉に沿った感情を表情でも表現し、言葉一つ一つに重みがあり、心の底から本心を語っている、という印象を与えます。さらには、その自然な語り口調からは、親しい友人・ミッシェルとテーブル越しに肘を突き合わせて自分だけに語り掛けてくれている、というような印象まで与えています。

これは彼女の人間性はもちろんのこと、1対1であっても、何百万人を前にした場面であっても、変わらずに素の自分で相手に語り掛けるという訓練の積み重ねの賜物でしょう。

 

秀逸な感情コントラスト遣い

素晴らしいスピーチは、ビジネスであっても政治であっても、あるいはインスピレーショナルトークであっても、聞き手に色々な感情を呼び起こしてくれるものです。

ミッシェル・オバマのスピーチでは、まず冒頭から、今、アメリカ国民が感じているであろう不安やフラストレーションをストレートに語り、「とてもよく分かります」、と同調しています。

ブレイクスルーメソッドで、「Tap & Transport」と呼んでいるのですが、まず相手の気持ちに寄り添い、相手の心に「tap(触れる)」

ことで、「ああ、この話し手は私のことを理解してくれている」、と、共感と親近感を構築し、その後、自分の世界観や伝えたいメッセージまで「transport(連れてくる)」、という手法です。

 

更にミッシェル・オバマのスピーチは、全体を通して、様々な感情が呼び起こされ、心が揺り動かされます。

まずは、不安やフラストレーションといった、「Pain Point(痛みとなるポイント)」に触れた後、更に、現状に対する絶望や不信感、怒りなどの感情に触れ、現政府へのいら立ちの感情を最大限に高めます。その後、アサーティブかつパワフルな感情と共に、次のように断言し、このメッセージを確固たる事実として位置付けることに成功しています:

“So let me be as honest and clear as I possibly can. Donald Trump is the wrong president for our country.(できるだけ正直、かつ、明確に言います。ドナルド・トランプは、私たちの国にとって、間違った大統領です。)”

ここで、この意見に反対するであろう人たちの気持ちにも触れて(”tap”)、「私たちの子供たちの将来」に目を向けることで、すべての人たちが共通の想いを持っている世界観へと”transport”します。非常に巧みな構成戦略です。

こうして聞き手の気持ちが一つになったところで、ジョー・バイデン候補のパーソナルストーリーを語ります。

バイデン候補が副大統領だった際、大統領夫人だったからこそ知りえた、彼の本来の人間味のある姿を、惜しみなく語ります。

そんなパーソナルストーリーで聞き手の心が温まったところに、再度、辛く、暗い現状に目を向けさせ、ジョー・バイデン「大統領」の元、明るい未来を目指していこう、という、「未来予想図」で締めくくられます。

 

ミッシェル・オバマは、2012年の、バラク・オバマの大統領選の際に、自分のスピーチをスピーチコーチと何度も練り直し、洗練に洗練を重ねて行ったそうです。

どんなスピーチの達人でも、「元々スピーチ上手だった」、ということではなく、長年の訓練の積み重ねの賜物なのです。

 

皆さんも、ブレイクスルーメソッドを通して、相手に伝わり、相手を動かすスピーチを身に着けてみませんか?

 

 

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