「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。
「ストーリー、ストーリー、ストーリー!」
私が基調講演などを行ってプロフェッショナル・スピーカーとして活動しているアメリカでは、世界大会チャンピオンに輝くスピーチの達人たちは、ことあるごとにこういいます。
なによりもストーリーが大切なのだ、と。
そんな私がつねづね企業のリーダーシップ研修で常に伝えていることも「ストーリーが大切だ」という法則です。
リーダーにはストーリーが必要です。
ストーリーテリングは、今やマーケティング戦略に必要不可欠であるのに、そのストーリーを語れるリーダーが日本には少なすぎるのが現状です。
リーダーみずからが、ストーリーをきちんとマーケティング戦略と位置づけて語っていかないと、どんどん世界規準からは遅れていくでしょう。
ストーリーとは成功譚を語ること…?
では、ストーリーとは何なのでしょうか。
フィクション? 成功譚?
それとも自慢話?
多くの方はストーリーに漠然としたイメージはあっても、明確につかんでいないことが多いかもしれません。
物語るといっても、なにも「ハリーポッター」のような小説や脚本を書くわけではないのです。
あくまでビジネスにつながる、そして現実に起こったストーリーです。
そのリーダーシップに必要なストーリーテリングが誕生する瞬間を、私は目の当たりにしたことがあります。
次世代リーダー、新田さんが心に秘めていたストーリーを語ったその時…?!
ある大手企業A社で研修を行った時のことです。
このA社は小売業界では広く知られていて、日本を代表するグローバル企業のひとつです。
そこでは次世代のリーダーを育成するための研修があり、私はプレゼンテーションの仕方について2日間にわたる研修を担当しました。
一日目にストーリーテリングの重要さを説き、参加者たちにストーリーを作ってもらうワークをしたのです。
「将来こんなリーダーになりたい」
「自分のリーダーシップスタイルはなんだろう」
「自分にしか出せないメッセージはなにか」
こうしたテーマをもとに、各人にストーリーを掘り起こしてもらいました。
たとえばヤル気のない部下に対して、ある行動と言葉で、モチベーションを引き出したという話。
かつて自分を指導してくれた、尊敬できるリーダーの話。
自分の経験を掘り起こしていくと、思いがけないほど色々なストーリーがあることに参加者全員が発見していました。
そしてその日の研修が終わったあと、多くの人が質問をしていくなか、最後まで椅子に座ったまま、じっと待っていた方がいました。仮に新田さんと呼びましょう。
新田さんは私のところに来て、彼女のストーリーをシェアしてくれたのです。
それは彼女のチームで働いていた、ある顧客アドバイザーの女性Bさんのケースでした。
彼女はスキルも高く知識も豊富であるのに、なかなか営業売上に結びつかない。
それがある時、顧客の一社から地域社会のために講習をしてくれる人を探しているといわれ、アドバイザーのBさんを推薦したのです。
本人は自信がないまま、「私でいいのですか」と不安がっていたといいます。
それが実際に講習をしてみれば、Bさんの技術も知識もすばらしいものであって、サロンから感謝されたのでした。
サロンにとっても地域社会にとっても、Bさんにとっても、もちろんA社にとってもウィンウィンな結果となったのです。
その時に新田さんが感じたのは、
「社会と、会社のアセットをつなぐことができた」
「モノとコトをつなぐことができた」
という、つなぐ喜びでした。
自分が部下のいいところを引き出してあげて、なおかつ社会貢献にもなり、さらには企業ブランドの価値も上げることができて、
「自分はつなぐことにもっとも喜びを覚えるリーダーなのだ」
と発見したといいます。
そのちょうど一年後、Bさんから手書きの手紙が、新田さんの元に届きました。
そこにはこう書いてあったそうです。
「あの時、新田さんにチャンスをいただいたおかげで自信がつき、自分が本当にやりたい道に進むことができました」
A社を退職して、専門職として独立することになったBさんは深く感謝を述べていたそうです。
新田さんにとっても、Bさんが夢をかなえるキッカケを作れたことは大きな喜びでした。
その話をしながら、なんと新田さんは感きわまって涙を流しだしたのです。
「実はこのストーリーは今まで誰にも話したことがなかったんです。
でも今日、研修のほかの参加者がストーリーを語るのを聞いていて、私らしいストーリーはこれじゃないか、と感じたんです。
それで信元先生に聞いていただきたかったんです」
泣きながら、そう語る彼女に、
「大丈夫ですか、そんなに感情が高ぶるなら、明日のプレゼンは止めますか」
と確認しました。
スピーカーはストーリーテリングをする時に、感情が言葉のひとつひとつに乗ってこないと、相手の心には響きません。聞き手は、スピーカーが感情を包み隠さず話をしているほうが、心に直球で響いてきます。
とはいえ感情が高ぶりすぎてコントロールできなくなってしまうようなストーリーの場合は、少しだけ冷静になれる時間をおいたほうが良いのです。
ぐっと感情がこみあげてきて、あふれるちょっと手前くらいで押さえられるようなコントロールを身に着けているのがプロスピーカーです。
そういう意味で新田さんがまだ生々しく感情に浸っていてコントロールできないのではないかな、と懸念したのです。
すると、新田さんは「大丈夫です。ここで泣きつくしましたから」と答えたのでした。
「この体験を話したことで、自分らしいリーダーシップスタイルが初めてはっきりと自覚できました」
といった新田さん。彼女は体験を物語ることによって、初めて自分らしいリーダーシップ像を把握できたのです。
そして翌日。各自がプレゼンを披露する場になると、あの新田さんが堂々とストーリーを語ったのです。
社会と会社のアセットをつなぐ喜び。
そしてつなぐことに何よりも喜びを感じるリーダー像。
ストーリーを語る新田さんは、聞いた誰もが心を動かされて、ついていきたくなるリーダー像そのものでした。
頼もしく、部下のことを考えてくれて、成功につなげていくというリーダー像。
そのプレゼンに「つなぐ喜び」というストーリーがあったからこそ、聞いていた人たちの心を揺さぶったのです。
ストーリーテリングとは、なにも荒唐無稽で、ドラマチックなフィクションを語ることではありません。
その人が体験した事実にもとづくものなのです。
あなたの体験に裏打ちされた、あなたの心奥深くにある、あなただけのストーリーです。
だからこそ聞いた人を動かすことができるのです。
ストーリーは自分を掘りさげていく自己発見プロセス
前述の新田さんは、私に話してくれるまで、彼女の体験を誰にも語ったことがなかったと打ちあけてくれました。
その体験は彼女のなかでだけ存在していたことでした。
ところが他人に「語る」ことで、経験は言語化されて、客観視できるようになったのです。
初めて話す時は動揺して泣きだしてしまっても、その後は客観視して冷静に語れたのです。
とてもつらい体験をされた方が「今は言葉も見つかりません」というのは当然のことであって、体験は言語にできるようになって初めて客観視できるものです。
そして深く自分を掘りさげていって、そこに気づきや学び、発見があった時に、他人をも巻きこむストーリーができあがります。
新田さんにとっては、この体験を言語化して話すことで、初めて自分がリーダーとしてやるべきことがわかった、という気づきの体験でもあったのです。
私自身のケースでいうと、私は乳がんサバイバーです。
乳がんが発覚した時は、目の前が真っ暗になりました。
同時期にパブリックスピーキングの大会を控えていた私に、多くの人が「なにもこんな時にコンテストに参加しなくても」とアドバイスしてくれました。
しかしながら私にとっては、こういう時だからこそ体験をシェアして、聞き手とつながりたい、多くの人たちと気持ちをわかちあいたいと願ったのです。
私が味わった不安や恐怖、娘に対する思い、そこから治療にむけてまた前向きになれたというストーリーをわかちあいました。
体験はひとりのなかで留まる限り、個人の体験ですが、ストーリーになった時には、多くの人にとっても大切な発見や知恵となります。
ストーリーを語るリーダーに人はついてくる
多くのビジネスパーソンは、自分の体験したことや、自分の身に起こったことを他人にシェアすることはあまりないかと思います。
そんなことは個人的なことであって、語るに足りないことであると考えているかもしれません。
しかしそこにこそストーリーの鉱脈があるのです。
ストーリーテリングは、なにも天才的な起業家やビジネス界のレジェンドが語れるものではなく、あらゆるビジネスパーソンのなかに内在しているものです。
ストーリーテリングは自分の内側を掘りさげていく作業です。
あなたが経験したこと。
あなたが苦労したこと。
あなたが失敗したこと。
あなたが気づいたこと。
そうしたパーソナルな体験こそ、人を動かすのです。そして聞き手の学びにもつながります。
パーソナルな体験をさらけ出すことのできるリーダーは、本当に強いリーダーと言えるでしょう。
全て順風満帆で自信の塊のようなリーダーよりも、苦労話も失敗話も自分の欠点も、全部さらけ出し、パーソナルな体験をストーリーとして語るリーダーにこそ、人は惹かれ、ついていきたい、と思うものです。
そんな人間味の溢れるリーダーに一歩近づくため、自己発見プロセスのストーリーテリング、実践してみませんか?
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🔸スピーチ教室の選び方
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(本記事は、フォレスト出版より刊行の「ストーリーに落とし込め 世界のエリートは自分のことばで相手を動かす」から抜粋・編集しています)