投資家タイプでこんなに違う!ピッチ構築のコツと共通する成功法則

”信元夏代のスピーチ術” 編集長、プロフェッショナルスピーカーの 信元です。

Journal of Business Venturing Insightsの2025年6月号で、画期的なメタ分析研究、『Which signals matter most? A meta-analytic study of early-stage investment decisions』が発表されました。初期段階のビジネスを支援する投資家が、投資を判断する際、決定打となる要素は何か?について研究をした結果です。

今回は、この研究結果をもとに、「投資家のタイプ別にピッチをどう構築すべきか」、そしてすべてに共通する最重要ポイントである「聞き手視点」について深掘りしていきたいと思います。

投資家タイプによって全く異なる決定打

この研究では、107本の研究と2億1千万件以上の資金調達データを統合し、投資家の種類ごとに重視するシグナル(情報)が異なることを明らかにしています。以下がその要点です:

  • ベンチャーキャピタリスト(VC):社会関係資本(人脈、ネットワーク)を最も重視し、情熱の表現(Displayed Positive Affect)はむしろネガティブに評価される

  • エンジェル投資家:人的資本(スキル・経験)と情熱の表現の両方を高く評価

  • エクイティ型クラウドファンディング(ECF):人的資本と知的財産(技術、アイデアの独自性)に集中

  • リワード型クラウドファンディング(RCF):情熱の表現が最重要で、人的資本や社会関係資本よりも強く影響する

これを見れば一目瞭然。

同じピッチでも、聞き手によって「どの情報を強調すべきか」が全く変わってくるのです。

では、具体的にどう変えていけばよいのでしょうか?
私が提唱するブレイクスルー・メソッドでは、常に「聞き手視点」を持つことが「伝わる」ためのカギになる、とお伝えしています。

そのためには、必ず次の4つの質問からピッチ構築を始めます:

  1. Who is the audience?(聞き手は誰か)

  2. What’s in it for them?(彼らにとってのベネフィットは?)

  3. Why you?(なぜあなたが語るのか)

  4. What do you want them to think, feel, act?(彼らにどう考え、感じ、行動してほしいのか)

この4つの問いに向き合わずして、どんなに洗練された構成や見事な情熱を込めても、それは独りよがりの自己表現に過ぎません。

重要なのは、「話し上手」ではなく、「伝わり上手」になること。

そしてそのカギが「聞き手視点」なのです。

各投資家タイプに対するピッチ戦略のポイント

ここからは、上記の分析結果をもとに、各投資家タイプに対するピッチ戦略のポイントを整理してみましょう。

① ベンチャーキャピタリスト(VC)向け

キーワード:社会関係資本 × 実証性 × スケーラビリティ

VCは社会関係資本ーつまり、誰とつながっているか、誰が支援しているか、どんな信頼を得ているか——を最も重視します。さらに、技術や知財などの裏付けが必要で、情熱的すぎる表現は避けた方がよいとされます。

古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスは、「人が説得されるためには、ロゴス・パトス・エトスの3つの要素が揃っていなければならない」、と唱えました。これを「説得の三要素」と呼びますが、3要素を揃えながらも、VC向けには比較的ロゴスとエトスを強めにメッセージ設計していくのが良い戦略である、と言えるでしょう。

►説得の三要素についてはこちら

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VC向けピッチのポイント:

  • エトス強化:顧問や支援者の顔ぶれを最前面に出す(例:著名な投資家の支援、アクセラレータ採択歴)

  • エトス強化:誰と協業しているかを明示(パートナー企業、大学、研究機関など)

  • ロゴス強化:ストーリーは控えめに、数字と実績で魅せる

  • パトスはバランスよく:「情熱」は言葉で語らず、構成の緻密さとビジネスの堅実さで伝える

② エンジェル投資家向け

キーワード:人的資本 × 情熱 × 親近感

エンジェルは起業家自身の「人」としての魅力や、どれだけこのビジネスに心血を注いでいるかという姿勢を評価します。人的資本と情熱のバランスが決め手です。

また、エンジェル投資家から資金調達を得たい段階にいる起業家は、まだ実績なども十分にない段階にあることでしょう。だからこそ、なぜこのビジネスを、今、立ち上げたのか、なぜ、あなた、でなければいけないのか、をれを全面的に押し出していく必要があります。つまり、説得の三要素の中でも、年ジェル向けにはパトスを強化しながらピッチを構成していくのが良いでしょう。

エンジェル向けピッチのポイント:

  • パトス強化:起業の背景をパーソナルストーリーとして語る(特に、いきなりストーリーで始まる、というオープニング手法が効果的)

  • エトスをバランスよく:自身やチームのスキルセットを具体的に説明

  • ロゴスをバランスよく:解決したい課題は、いかに、客観的に見ても喫緊の課題なのか、データ等の根拠を示して証明したうえで、「自分ごと」として感じてもらえるよう、課題解決への強い動機を伝える

  • パトス強化:情熱が歓迎されるので、熱意ある語り口で

③ エクイティ・クラウドファンディング(ECF)向け

キーワード:人的資本 × 知的財産 × 将来性

投資家層が広く、多様な目線でチェックされるECFでは、「中身のあるプロフェッショナルさ」が求められますので、ロゴスを強化する戦略が有効だと言えましょう。但し前述の通り、説得の三要素のいづれが欠けてしまってもあいては説得されませんので、パトス・エトスも忘れずに。

ECF向けピッチのポイント:

  • エトス・パトスをバランスよく:創業者やチームの信念、実績から、過去のプロジェクト成功例を可視化

  • ロゴス強化:技術の独自性、IP保有状況、将来の拡張性を強調

  • ロゴス強化:数値計画、ビジネスモデルの整合性、そして出口戦略も提示

④ リワード型クラウドファンディング(RCF)向け

キーワード:情熱 × ストーリー × 共感

RCFでは情熱とストーリーがすべてです。支援者は「この人を応援したい」と感じた瞬間に出資を決めます。パトス強化に注力しましょう。

RCF向けピッチのポイント:

  • パトス強化:視覚的・感情的な演出(動画、写真、言葉選び)も使いながら、「夢」に共鳴してもらうための感情的なクライマックスを作る

  • パトス強化:応援したくなる物語性(起業背景、挑戦、困難)を描く

  • ロゴス・エトスをバランスよく:このプロジェクトに支援すると支援者にとってどんなベネフィットがあるのか、なぜそれを約束できるのか、明確に伝える

同じワンビッグメッセージ®でも聞き手によりメインポイントは変わる

ここで、最も重要なことをもう一度強調します。

どの投資家タイプに対しても、語るべき”核となるメッセージ”—つまり、ワンビッグメッセージ®は変わりません。

でも、上述の通り、聞き手によって伝わるポイントは違います

ですから、強調するポイント、ストーリーの切り口は大きく変える必要があるのです。

たとえば、あなたのワンビッグメッセージ®が「このプロダクトで、子どもの発達を支援する社会をつくる」だとします。

  • VCには「行政・教育業界との連携」や「拡張性と実証データ」で語り、

  • エンジェルには「自分の子を持つ親としての想い」で語り、

  • ECFには「どんなチームで、どう拡張していくか」の戦略で語り、

  • RCFには「我が子の成長と向き合った涙の経験」を物語として語る。

つまり、ワンビッグメッセージ®の“伝達角度”を変えるだけで、同じメッセージが聞き手の心に届くようになるのです。

「伝える」から「伝わる」へ。

ピッチもスピーチも、最終的には“相手の行動を変える”ことが目的です。そのためには、「自分が語りたいこと」ではなく、「相手が受け取りたい形で届けること」が何より大切です。

そして、それを可能にするのが、「聞き手視点」という戦略的思いやりなのです。

ピッチの構成に迷ったら、まずはこの問いを投げかけてみてください:

このピッチは、誰の心に、何を残すのか?

そこからあなたのストーリーは、聞き手に届く「武器」となるのです。

 

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