One BIG Message®とは何か|伝わるスピーチの核心にある「たったひとつの大事なメッセージ」

“信元夏代のスピーチ術” 編集長、プロフェッショナルスピーカーの 信元です。

「一生懸命話したのに、何も伝わっていなかった」「プレゼンの後、相手が何も動いてくれなかった」—そんな経験をお持ちですか?

伝わらない原因のほとんどは、話し方ではありません。メッセージが絞り込まれていないことにあります。私はニューヨークを拠点にプロフェッショナルスピーカーとして活動し、ニューヨーク州スピーチ大会5連覇を経験するとともに、マッキンゼーでの戦略コンサルタントの経験も持ちながら、日米のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチ・プレゼンを数多くコンサルしてきました。その経験から確信していることがひとつあります。伝わるスピーチには、必ずただひとつの強いメッセージがある、ということです。その考え方を、私が開発したブレイクスルーメソッドでは One BIG Message® と呼んでいます。

この記事でわかること

  • One BIG Message®の定義と、なぜ必要なのか
  • メッセージを「20文字以内」に絞り込む理由と根拠
  • One BIG Message®がないとどうなるか(具体例)
  • One BIG Message®の作り方・3つのステップ
  • よくある質問(FAQ)

One BIG Message®とは何か——まず定義から

One BIG Message®とは、スピーチやプレゼンを通じて聞き手に伝えるべき、たったひとつの大事なメッセージのことです。

ブレイクスルーメソッドでは、どんなスピーチも、最終的に聞き手が持ち帰るべきメッセージはただひとつでなければならないと考えます。複数のメッセージを詰め込めば込むほど、聞き手の記憶には何も残らなくなるからです。認知心理学の研究によると、人間は事実よりもストーリーを22倍記憶しやすいと言われています。それでも核心となるメッセージがひとつに絞られていなければ、記憶には定着しないのです。

One BIG Message®の特徴を整理すると、次のようになります。

  • ひとつに絞られている:複数のメッセージではなく、最も伝えたい核心を一点に集中させる
  • 20文字以内で表現できる:長くなるほど解釈の余地が生まれ、誤解の元になる(英語では10 wordsです)
  • 聞き手視点で設計されている:「自分が言いたいこと」ではなく「聞き手が受け取れること」から逆算する
  • スピーチ全体の設計図になる:One BIG Message®が定まって初めて、構成・ストーリー・クロージングが決まる

なぜ「20文字以内」なのか

スピーチコンテストの世界大会チャンピオン、クレッグ・バレンタインは「英語スピーチは10ワードにまとめよ」と提唱しています。英語と日本語の情報密度の違いを考慮すると、日本語では英語の約2倍の文字数になります。

  • I am Japanese(3語)→ 私は日本人です(7文字)
  • Have you ever been to this country?(7語)→ この国に行ったことがありますか?(15文字)

このことから、日本語のOne BIG Message®は 20文字以内 が最適な長さになります。

なぜ短くする必要があるのでしょうか。理由は3つあります。

  1. 記憶に残りやすい:人間が自然に覚えられるのは15〜20文字程度のフレーズです
  2. 解釈の余地をなくせる:長い言葉ほど受け手の解釈が広がり、誤解が生まれます
  3. 削ぎ落とす過程で核心が見える:20文字に収めようとする作業自体が、本当に伝えたいことを明確にするプロセスになります

よく知られたキャッチコピーを思い出してみてください。「やめられない、とまらない、かっぱえびせん」(18文字)。「インテル、入ってる」(8文字)。「お金で買えない価値がある」(12文字)。これらはすべて20文字以内です。短いからパワフルなのではありません。パワフルなメッセージを絞り込んだ結果として、短くなっているのです。ちなみに私は1995年に日本からアメリカに来ているので、これらのキャッチコピーはもしかしたら古いかもしれません??

また、日本語はもともと婉曲的な表現を好む言語です。敬語、察する文化、以心伝心——これらの美徳は、スピーチの場では「解釈の余地」を広げ、誤解を生みやすくします。だからこそ、日本語で話すときはとくに意識して20文字以内に絞り込むことが重要なのです。

One BIG Message®がないと、何が起きるのか

私がコンサルした食品機材メーカーの社長は、展示会でこんなプレゼンをしていました。

弊社の新商品は、ご自宅でもレストランと同じ豆腐が10分で作れます。国産大豆使用で、香味塩も販売しています。鍋は特許の二重構造で、地場産業の磁器を使い、地域経済にも貢献しています……

熱意は十分伝わります。商品の良さも本物です。それでもブースでは「面白いですね」と言われるだけで、商談にはこぎつけられませんでした。

メッセージが多すぎて、何も残らなかったのです。

One BIG Message®がない状態で起きることを整理すると、次のようになります。

  • 聞き手が「で、結局何が言いたいの?」と感じる
  • 話が終わった後、内容を人に説明できない
  • スピーカーの熱意は伝わるが、行動につながらない
  • 翌日には記憶から消えている

そこで私はメッセージを絞り込み、エンドユーザー向けにOne BIG Message®をこう打ち出しました。

「老舗豆腐屋の味を店でも家でも10分で」(18文字)

このメッセージひとつに収束させた結果、この企業は現在、世界28ヶ国に進出しています。変わったのはメッセージだけです。商品も事業内容も、何も変えていません。

One BIG Message®の作り方——3つのステップ

One BIG Message®は思いつきで作るものではありません。次の3ステップで、ロジカルに導き出します。

ステップ1:聞き手を知る4つの質問に答える

スピーチを設計する前に、必ず自分に問いかけてください。

  1. 聞き手は誰か - 「30代独身女性、都内在住」のような、デモグラフィックスにとどまらず、聞き手の興味や課題、不安事項、ツボ、現状、特にペインポイント(痛み)は何か、まで念頭に置きましょう。
  2. 聞き手にとってのメリットは何か ー 話し手である自分が良いと思っていても、聞き手が良いと思ってくれなければスピーチは不成功に終わります。あなたのスピーチを聞いたことで得られる聞き手のメリットは何でしょうか?具体的に考えましょう。
  3. なぜ自分がこの話をするのか - あなたは代わりが効く存在ですか?そうではない、と言いたいはずです。なぜ、今、この人たちに、自分が、この話をするのか。今一度自分に問いかけてみましょう。自信や説得力に繋がるはずです。
  4. そして聞き手にどう行動してほしいか - あなたのスピーチを聞いた後、聞き手は普段の生活・業務に戻ります。その時、どんなアクションを取ってもらいたいのでしょうか?たった1つのネクストステップに絞り込み、そこに向けてメッセージを構築していくのです。

この4つへの答えが揃って初めて、「聞き手視点のOne BIG Message®」が作れます。

ステップ2:発散→収束の思考プロセスで絞り込む

伝えたいことをポストイットなどに書き出し、全部出し切ります(発散的思考)。出し切ったら、似たもの同士をグルーピングし、3つ程度に絞ります(収束的思考)。このグルーピングには、戦略コンサルタントがよく使う、”親和図”というフレームワークを使います。

絞り込んだら、「それらすべてに共通する一番大切なことは何か?」を問い続けます。その答えが、One BIG Message®の原石です。これは私がマッキンゼーで戦略コンサルタントとして鍛えてきたロジカルシンキングと同じプロセスです。

ステップ3:20文字以内に言語化し、検証する

原石を20文字以内で言語化します。最初の案で決めてしまわないことが大切です。プロのコピーライターは納得のいくコピーに至るまで何百本も書くと言われています。One BIG Message®も同様で、思考量が質に比例します。専門用語や難しい言葉は避け、誰が聞いても同じ意味に受け取れる表現を選びましょう。最終確認として、「このメッセージを聞いた全員が、同じ一文で要約できるか?」を問いましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. One BIG Message®はスピーチのどこで伝えますか?

A. 基本的には、スピーチ全体の要所要所で一貫して伝えていくことが大切です。オープニングではOne BIG Message®が完全にネタバレにならない程度に示唆し、真ん中の部分では、One BIG Message®をサポートするメインポイントを伝えるごとに、One BIG Message®に繋げていきます。クロージングでは再度One BIG Message®を強調します。最後にもう一度同じメッセージで締めることで、記憶への定着が格段に高まります。

Q. 伝えたいことがたくさんある場合はどうすればいいですか?

A. ほとんどのプレゼン失敗要因は、「伝えたいことが沢山ある」まま情報を全部盛り込んでしまうことにあります。だからこそ、発散的思考と収束的思考を使って、情報を整理していくことが大切です。そこで整理され、「必要だ」と判断された情報は、「メインポイント」として整理します。基本構造では、メインポイントは3つです。One BIG Message®を支える根拠・理由を3つに絞り込み、「なぜそう言えるのか?」という問いで検証していきます。「3の法則」——人間の脳は2つでは物足りなさを感じ、4つでは多いと感じ、3つでちょうど満足する——に基づいて、3つに絞ることをお勧めしています。

Q. 聞き手が変わるたびに、One BIG Message®も変えるべきですか?

A. 聞き手が変われば、One BIG Message®は変えて構いません。ただし、あなたが伝えたい核心そのものが変わることはないはずです。前述のM社も、取引先向けには「機材から食品まで大豆専門のよろず屋です」(19文字)、エンドユーザー向けには「老舗豆腐屋の味を店でも家でも10分で」(18文字)と使い分けていました。核心は同じで、表現が聞き手ごとに変わるイメージです。

Q. 30文字になってしまいます。どう削ればいいですか?

A. 「この言葉をなくしても、意味が通じるか?」という問いを一語一語に繰り返してみてください。削ぎ落とす勇気を持つことが、One BIG Message®づくりの核心です。また、専門用語を日常語に置き換えると、自然と文字数が減ることも多いです。

「何を言うか」ではなく「何をひとつ言うか」が、伝わるスピーチの出発点です

One BIG Message®とは、スピーチを通じて伝えるべきたったひとつの大事なメッセージです。日本語では20文字以内に絞り込むことで最大の効果を発揮します。作り方は、聞き手を知る4つの質問→発散と収束の思考プロセス→20文字以内への言語化、という3ステップです。One BIG Message®が定まると、聞き手の記憶に残り、頭と心を動かし、行動を引き出すスピーチが実現します。

伝わるスピーチの第一歩は、「何を言うか」ではなく「何をひとつ言うか」を決めることです。

One BIG Message®は単なるテクニックではありません。「誰に、何を、なぜ伝えるのか」を徹底的に考え抜くための思考の枠組みです。ここを磨くことが、スピーチもプレゼンも、さらには日常のコミュニケーションまでを根本から変えていきます。

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