伝わるスピーチに必要なのは、話し方よりOne BIG Message®

“信元夏代のスピーチ術” 編集長、プロフェッショナルスピーカーの 信元です。

スピーチやプレゼンを改善しようとするとき、多くの人は「話し方」を磨くことから始めます。声を大きくする、滑舌をよくする、アイコンタクトを意識する……。確かにこれらは大切です。でも、私がニューヨークでスピーチコーチのジャニスから最初に叩き込まれたのは、全く別のことでした。

「ナツヨ、あなたはまだスピーチのことを何もわかっていない。言いたいことは何?聞き手全員が答え合わせをしたら、みんな同じ答えが出てくる?出てこないなら何も伝わっていないのよ」

この言葉が、私のスピーチへの向き合い方を根本から変えました。伝わるスピーチに必要なのは、話し方より先に、One BIG Message®です。

この記事でわかること

  • 「話し方」と「伝わること」はなぜ別物なのか
  • One BIG Message®とは何か、なぜ先に決めるべきなのか
  • 話し方が上手でも伝わらないスピーチに共通するパターン
  • One BIG Message®が決まると、話し方はどう変わるか
  • よくある質問(FAQ)

「話し方が上手」と「伝わる」は、なぜ違うのか

まず、根本的な問いから始めましょう。

「話し方が上手な人のスピーチは、必ず伝わるのでしょうか?」

答えはNoです。

話し方が流暢で、声が聞き取りやすく、アイコンタクトも完璧——でも、スピーチを聞いた後に「で、何が言いたかったの?」という感想を持たれるスピーカーが、実はとても多いのです。

逆に考えてみましょう。スティーブ・ジョブズがMacBook Airの発表で封筒からPCを取り出したシーンを、あなたはまだ覚えていますか?

ご存知ない方は、是非こちらを見てみてください。

3分20秒から3分50秒あたりのシーンに注目してください。この瞬間のスライドは、ほぼ真っ黒な背景に封筒の写真だけ。情報量は極限まで削られていました。でも、世界中の人の記憶に残り、行動を引き出しました。

なぜでしょうか。One BIG Message®が明確だったからです。

「MacBook Airは世界で最も薄いノートブックだ」——この「最も薄い」というたったひとつのメッセージを、封筒というストーリーで届けることだけに集中していました。話し方が素晴らしかったことも確かですが、それはあくまでOne BIG Message®を届けるための「手段」でした。

話し方はメッセージを「届ける手段」です。届けるものが定まっていなければ、どんなに上手な話し方も空回りします。

話し方が上手でも伝わらないスピーチの、3つの共通パターン

私がこれまで数多くのビジネスパーソンのスピーチを見てきた中で、「話し方は良いのに伝わらない」スピーチには、3つの共通パターンがあります。

パターン1:メッセージが複数ある

「今日は3点お話しします。まず1点目は……」——こう始まるスピーチをよく聞きます。3点話すこと自体は問題ありません。でも、聞き手が帰り際に「一番印象に残ったことは何ですか?」と聞かれたとき、全員が同じことを答えられなければ、One BIG Message®は届いていません。

「言いたいことが3つある」という状態は、「One BIG Message®が決まっていない」状態です。3点はOne BIG Message®を支える、根拠や理由、背景を示すサポートメッセージであり、メッセージ本体ではありません。これをブレイクスルーでは、メインポイントと呼んでいます。このメインポイントは、最も伝えたいメッセージではないのです。研修やコーチングをしていると、ここを勘違いしてしまう方が9割以上いらっしゃいます。3つのメインポイントを並べたとき、それを総合して言える、もう一段視座の高いメッセージは何でしょうか。それが、One BIG Message®です。

パターン2:「自分視点」のスピーチになっている

「私は〇〇だと思います」「弊社の強みは〇〇です」「私がこれまで経験してきたことは……」——このように、主語が常に自分になっているスピーチは、聞き手の心に届きにくいのです。

伝わるスピーチの主語は「聞き手」です。「あなたにとって〇〇が変わります」「皆さんの仕事が〇〇になります」——聞き手を主語に変えるだけでも、スピーチの印象は大きく変わります。

パターン3:情報は正確だが感情が動かない

データ、根拠、事実——これらはロゴス(論理)として重要です。でも、それだけでは人は動きません。

アメリカのGEはこう言います。「Emotional first, rational second(感情が先にきて、理性は二番目に来る)」。人間は感情が先に動き、その後に理性で判断する生き物です。One BIG Message®を感情に訴えるストーリーで届けて初めて、聞き手のパトス(感情)が動き、行動につながります。

One BIG Message®が先で、話し方は後——なぜこの順番が重要なのか

「では、話し方の練習は意味がないのですか?」

そんなことはありません。話し方の練習は大切です。でも、「何を届けるか」が決まる前に「どう届けるか」を練習しても、効果は限定的です。

この順番を間違えると、こんなことが起きます。

「滑舌がよくなった。でも何も変わらない」

「声が大きくなった。でもまだ伝わっている感覚がない」

「アイコンタクトを意識している。でも反応がない」

これらはすべて、デリバリー(届け方)の改善だけをしていて、One BIG Message®(届けるもの)が定まっていない状態です。

逆に、One BIG Message®が定まると、話し方の練習が一気に意味を持ち始めます。

「このOne BIG Message®を、最初の7秒でどう提示するか」「感情を動かすストーリーをどこで入れるか」「クロージングでOne BIG Message®をどう再提示するか」——これらが定まると、デリバリーの練習は目的を持って行えます。話し方の上達スピードも、格段に上がるのです。

One BIG Message®の作り方——今日から始められる3ステップ

One BIG Message®を決めるプロセスは、次の3ステップです。

ステップ1:聞き手を知る4つの問い

まずスピーチを設計する前に、以下を自分に問いかけます。

①聞き手は誰か

②聞き手にとってのメリットは何か

③なぜ自分がこの話をするのか

④聞き手にどう行動してほしいか

この4つへの答えが、One BIG Message®の方向性を決めます。

ステップ2:発散→収束で絞り込む

伝えたいことを全部書き出し(発散)、「これら全てに共通する、最も大切なことは何か?」を問い続けて絞り込みます(収束)。この思考量が、One BIG Message®の質を決めます。

ステップ3:20文字以内に言語化する

原石を20文字以内で言語化します。最初の案で決めず、何パターンも試してください。「このメッセージを聞いた全員が、同じ一文で要約できるか?」——YESなら完成です。

よくある質問(FAQ)

Q. 話し方の練習は、One BIG Message®が決まってからでないとダメですか?

A. 「ダメ」ではありませんが、「決まってから」の方が効果的です。One BIG Message®がない状態でデリバリーを磨いても「上手に話せる」止まりで、「伝わる」には届きにくいです。両方同時に進めるより、まずOne BIG Message®の設計に集中することをお勧めします。

Q. One BIG Message®が決まると、話し方はどう変わりますか?

A. 話す目的が明確になるため、余計な情報を話さなくなります。結果として、話がシンプルになり、聞き手にとってわかりやすくなります。また「何を話すか」に迷いがなくなるため、話し方に余裕が生まれ、アイコンタクトや表情などのデリバリーにも意識が向きやすくなります。

Q. 「何をひとつ言うか」が決まらなくて困っています。

A. 決まらない原因のほとんどは、「聞き手を分析する前にメッセージを考えようとしていること」にあります。まず「聞き手は誰か」「聞き手にとってのメリットは何か」を先に考えてみてください。聞き手が明確になると、「その人に最も届けるべきことは何か」が見えてきます。

Q. プレゼン資料を先に作ってしまいましたが、One BIG Message®から作り直すべきですか?

A. まずは作った資料を見渡して「One BIG Message®は何か」を改めて問い直してみてください。資料から逆算してOne BIG Message®を発見することもあります。それが定まったら、資料のどのスライドがOne BIG Message®を支えているか、不要な情報はどれかが見えてきます。

「何をひとつ伝えるか」が決まって初めて、話し方は力を持ちます

話し方を磨くことは大切です。でも、One BIG Message®が決まる前にデリバリーを磨いても「上手に話せる」止まりで、「伝わる」には届きません。伝わるスピーチに最も必要なのは、話し方の前に「何をひとつ伝えるか」——One BIG Message®を決めることです。この順序を変えるだけで、話し方の練習も、スピーチ全体の設計も、全てが変わります。

「何をひとつ伝えるか」が決まって初めて、話し方は力を持ちます。One BIG Message®が、伝わるスピーチの出発点です。

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