「スピーチでは見出しはいらない」と思っていないだろうか。
タイトルづけと聞くと、コピーライティングとか、広告の見出し、Eメールのタイトルのつけ方を想像する人が多く「スピーチには関係ない」と思われる方もいるかもしれない。確かに、主に書き言葉に必要なもので、スピーチ本番では、スピーカー本人が見出しを言うことはあまり見ないかもしれない。しかし、見出しを考えることは、スピーチプレゼンの準備段階としてとても重要な位置を占める。
例えば、講演会を開催するなら、まず、その講演会のタイトルが欲しい。タイトルがなかったら何の話なのか、さっぱり分からず、誰も集まってくれないだろう。もしプリント資料を聴衆に配るなら、中見出しなどを使って話の構成を分かりやすく整理して示せないといけない。その構成に従ってスピーチを進めるので、中見出しを考えることは、より分かりやすい構成を作ることにつながる。
さらに、タイトル・中見出しを考えることを習慣化したり、工夫することで、話の要点をまとめる力が養成され、話のポイントをつき、分かりやすいスピーチ・プレゼンができるようになる。そうなれば、聴衆に好印象を持たれるだろう。
この記事では、聞き手にとって分かりやすいスピーチ・プレゼンを作る準備プロセスの一環として、タイトルのつけ方のコツを解説したいと思う。話全体のタイトルのつけ方(主題)、また話を構成するそれぞれの各論の部分にも見出しが必要になるので、それらのつけ方をシェアしたい。
話全体のタイトル(主題)を考える
なぜタイトルは必要か
もし講演会を開催するなら、まず、その講演会のタイトルがないと誰も集まって来ない。だからスピーチには、タイトルは必要だ。
では「短いスピーチならタイトルはいらないのでは?」と考える人もいると思うが、やはりタイトルはつけた方がいい。話を聞いてもらう前に、タイトルを示して、相手にどんな話かを予想させることが重要なのだ。なぜかと言うと、次の3つの理由による。
- 予想してから聞くのと予想しないで聞くのでは、明らかに、予想してから聞いた方が記憶の定着率は高い。
- タイトルをつけた方が、ある程度予想がつくので、それが話のガイド、道標を示すことになり、聞き手にとっても聞きやすい。
- 相手をワクワクさせ「なんだろう?」と思わせるタイトルをつけることに成功すれば、「話を聞いてみよう」という動機付けにもつながる。
タイトルのつけ方(応用編)
タイトルは、自分の一番大切なメッセージを起点にして考えるのが基本であり、常套手段だ。しかしながら、それをわざと隠して相手の興味のありそうなことを意識してタイトルづけをして、相手を呼び込み、自分のメッセージに誘導するテクニックもある。
“Tested Advertising Methods” (著者:John Caples) によれば、成功する広告の見出しには、次の4つの秘訣があるらしい。
読者が
- 得になる
- 新情報がある
- 好奇心がそそられる
- 簡単で手っ取り早い方法がある
と感じるタイトルにすれば良い。このブログでの目的は、見出し・タイトルづけのスピーチへの応用であり、タイトルのつけ方そのものではないので、どのようなタイトルをつけるとマーケティングが成功するかのついて詳しく知りたい人は、先にご紹介した本を参照されたい。
“Tested Advertising Methods” (著者:John Caples)の日本語訳はこちら
タイトルのつけ方(基本編)
前述のような応用テクニックを駆使するにしても、自分のメッセージのコアになるものが何かを明確に自分が認知していないと応用のしようがない。そこで、全体のタイトルを考える時には、中心となるメッセージを考えないといけない。そのメッセージは、自分自身の中に眠っているわけだから、自身に問いかける必要がある。その問いかけとは:
- 1、自分の言いたいことは何か。
- 2、それは相手のニーズに合っているか。
自分の言いたいことを整理して、その中から一番重要なものを選ぶこと。それを取り上げて、一つにまとめ、簡単に20語以内にまとめることがわかりやすくて、効果的なタイトルを作るコツだ。
この中心となるメッセージは、いくつもあってはいけない。一つに絞ることが重要だ。そうでないと、メッセージがブレてしまい、何を言いたいのか分からなくなてしまう。
この中心となる1つのメッセージををブレイクスルーメソッドでは、「ワンビッグメッセージ」と呼んでいる。目安として、日本語なら20語以内、英語なら10 ワード以内にまとめてみよう。これがそのまま話全体のタイトルになる。
よくある間違いは、言いたいことを詰め込み過ぎてしまうことだ。たくさん情報を与えた方が、相手にたくさんの選択肢や、判断材料を与えることになるから、その方が親切だと考える人がいるかもしれない。
しかし、一部の人を除き、一般の聴衆はあまり情報が多すぎると、判断がつかなくなり、逆に、あなたが何を言いたいのか分からなくなってしまうのだ。結果、聞いた後、何も残らなくなり、スピーカーの目的が達成されなくなってしまう。
話全体のタイトルはワンビッグメッセージが最適
だから、何を言うべきか、何を言わないべきか、たくさんある自分が伝えたいことの中から選出して、あらかじめ整理しておく必要がある。この作業には時間がかかる。この整理がされていないと、聞き手は、困惑するだけだ。
従って、相手のニーズに合わせて、同時に、自分の言いたいことを整理し、明確にすることが重要になる。中心となる自分のメッセージは何か? それを研ぎ澄ますことが一番大切だ。
(2.の相手のニーズを知るコツについては、こちらの記事をクリックして参照されたい。)
ワンビッグメッセージを伝えないとどうなるか
話を聞いていて、どこか他人事、というか、その人の想いが伝わってこないスピーチをたまに聞くことがある。内容をよく聞くととてもいい話なのだが、感動が生まれない。客観的なデータや人から聞いた言葉ばかりが耳についてしまう。つい、「で、あなたはどうなの?」と聞きたくなってしまう。
この問題は、ワンビッグメッセージを考えていないことに起因する。
自分の本当に言いたいことが明確になっていない人は案外多い。中には、他の人の意見を気にしすぎて、無意識に自分の主張を封印している人もいる。それ故に、自分でも何を主張していいのかが分からなくなることさえあるのだ。
自分の言いたいことが何かをはっきりと自分でも認識し、それを整理する作業は重要だ。自分の心から沸き起こるような情熱、自分のプロジェクトに賭ける自らの熱い想いには、必ずワンビッグメッセージがある。
うちに秘める自らの想いを書き出す「見える化」作業
ワンビックメッセージを掘り当てるには、いわゆる頭にモヤがかかった状態から抜け出す必要がある。さらに、それを言語化して、うちに秘める自らの熱い想いを「見える化」してみよう。
そのためには、自問自答しながら(誰かと実際に話をするのが一番いい)、付箋紙などを利用して、洗いざらい書き出す作業をしてみよう。
ワンビッグメッセージを絞り出す3ステップ
モヤモヤを晴らし、言いたいことを引き出して整理し、それをスピーチとして構成する3つのステップを紹介しよう:
- 思いつくままにポイントをできるだけ多く書き出す(発散的思考)
- 書き出した内容をグルーピングする(収束的思考)
- グループタイトルをつける。(目安として日本語なら20語以内、英語なら10 ワード以内)
① 思いつくままにポイントをできるだけ多く書き出す(発散的思考)
プロセスとしては、最初に、思いつくままに付箋紙などを利用して、ポイントを書き出して行く(発散的思考)。この段階ではただ書き出すだけで、何も判断を加えない。
自分の秘めた想いを解き放つための質問は、例えばこんな感じだ。
- そもそもこのスピーチを頼まれる(企画する)ようになったきっかけは何か?
- なぜ話そうと思ったのか?
- このスピーチで喜ぶ人は誰か? その人は何を聞くと嬉しいのか?
- そう思わせた出来事はなかったのか?
- 他人の意見とは別に、自分は本当は何が一番言いたいのか?
人とは、意外と自分のことが自分で分からないものだったりする。実際、ブレイクスルーセミナーの受講者にこの質問をしてみると、最初曇っていた彼らの顔が輝き出すことが多い。モヤモヤが晴れてスッキリするからだろう。
ワンビッグメッセージを明確化することで自己発見
また、自分の言いたいことが明確になることは、自分を発見することにもつながる。新しい自分を見つけたり、再度認識することは、生きがいを見つけることにもつながる。スピーチの準備とは、それはそのまま自分との対話の時間につながり、本来の自分を発見し、表現することにつながっていく。
こうして、思いつくままに、一つひとつの想いや項目を付箋紙に全部書き出し、全体が見渡せるような大きなデスクや壁に貼ってみよう。
② 書き出した内容をグルーピングする(収束的思考)
①のプロセスで、あらかた出たと感じたら、似通った内容のものはグルーピングする。いくつかグループができたら、その中で本当に必要な内容はどれかを判断する(収束的思考)。
何を捨てて、何を残すか?
実は、このプロセスが非常に難しい。どのアイディア・項目も愛着があったりして、捨てきれない場合がある。しかし、少しでも関係のないものは勇気を出して切り捨ててしまおう! そして、捨てる基準は、スピーチの目的を中心に考える。この段階で、聞き手のニーズ・ウォンツを考慮することも必要だ。
③ グループタイトルをつける。
(1)ワンビックメッセージ(日本語なら20語以内、英語なら10 ワード以内が目安)を考える
②でグルーピングしたものがスピーチの柱となる部分であり、それらをつなぎ合わせれば、スピーチの構成が出来上がる。そして、そのグループに集めたものを要約したものを各論のテーマにすれば良い。
ここで、各論のテーマ、タイトルづけを考える前に、もう一度、出来上がったグループ全体を眺めながら、自分の本当に言いたいことを振り返ってみる。一番大切な1つのメッセージ、つまりワンビックメッセージに当たるものは何かを考える。そして、これが全体のタイトルとなる。
一度ワンビッグメッセージを決めたら、それに関連しないグループは、思い切って捨ててしまい、最終的に3つまでに絞り込もう。この3つが各論になる。
しかし、どうしても迷う場合もある。例えば、二つのグループがピンとくるが、どちらも捨てがたい、そんな時だ。解決策としては、それを2回に分けて話す、というやり方。要は、なんらかの方法を使ってどちらか一つに絞ることだ。
(2)各論用にグループタイトルをつける(日本語なら20語以内、英語なら10 ワード以内が目安)
いろいろあるアイディアや言葉の中から、一番大切な部分だけを選んで、他は捨てる。そして、それを一番的確に表現する言葉を選ぶ。
実は、タイトルを考える作業というのは、このプロセスの繰り返しなのだ。
タイトルづけがうまくできないと感じるかもしれない。こういう人は往々にして、要点を伝えるということが苦手だったりする。短いタイトルを考えることは、自分の言いたいこと、要点を絞る作業と同じだ。この作業の数をこなして練習すれば、ポイントをついた話が必ずできるようになり、スピーカーとして、あなたは飛躍的に成長できる。
<参考事例> Nさんの場合
Nさんの目的は、本の出版に漕ぎ着けることだった。だから、
(目的)「この本が出版されるべき理由を出版社に理解してもらう」
を基準にし、それとの関連性を同時に考えた。言いたいことを整理すると、
- 社会的な内容のもの
- 共著者についてのもの
- 自分自身の体験について
が多かった。他にも、会社経営のポイントのような内容もあった。しかし、本が出版されるべき理由には当てはまらないと考え、思い切って捨てた。この3つに所属するものはそこへ移動し、関係のないものは捨てた結果、①で出てきた全部で30枚くらいの付箋紙は、15枚程度に減った。さらにその中でも重複するものがあったので、10枚くらいまでに絞れた。その10枚を3つのグループへ分けた。
全体を眺めながら、ワンビックメッセージは何かを考えると、本のタイトル「定年から始める生きがいビジネス」が浮かんだ。灯台下暗し。すっかり忘れていたことだった。本の紹介をするのがプレゼンの目的なのに、当初考えられたのは、いろんな枝葉の部分の主張。一つひとつみると、もっともな意見なのだが、それらの主張が強く、混じり合った結果、全体として何を言いたいのかボケてしまい、よく分からなくなっていた。
実際のスピーチでは、本のタイトルはもちろん紹介するが、それをそのままプレゼンのタイトルにするのではなく、
(ワンビッグメッセージ=プレゼン全体のタイトル)
「シニアのみなさん!生きがいビジネスを始めませんか?」
というように呼びかけ調に変えてみた。
次に各論のタイトルづけをした。
もし、この本が出版されると。。。
・社会的な内容のもの(高齢化社会の統計、シニアの再就職問題など)
→シニアの力で日本がグローバルで元気に
・共著者についてのもの(78歳にて現役経営者、本人やフォロアーの起業体験など)
→起業はシニアでもでき、さらにイキイキと!
・自分自身の体験について(共著者の教えを受けて自分も起業。不安なく困難を乗り越えたことなど)
→シニアに起業の道標を示せ、不安を取り除く!
これらの各論は、スライドに掲載したり、各参加者への配布資料に使ったりできる。
絶対上手くなる! タイトルづけの練習方法
タイトルづけが上手くなればスピーカーとして成功できる!
タイトルづけは、ただ要約するだけなら、練習すればすぐに上達できるだろう。しかし、人を感動させるレベル、「なんだろう?」と聞き手の好奇心をそそるレベルに達するには、少し時間がかかると思う。以下に示すのは、そのレベルにあなたを導いてくれる練習方法だ。
- 1、新聞の見出しを隠して、本文だけを読む。読み終えたら、自分で見出しを考える。その後、隠した見出しを見る。これを繰り返す。
- 2、いろんな記事や広告を見て、それによって自分が行動を起こした場合、その記事、広告を取っておくか、メモしておく。ネット検索している時に、思わずクリックしてしまったタイトルをメモしておくのも良いだろう。
これらのメモなどを常に参照しながら、タイトルを考える癖をつければ、きっとあなたも成功するタイトルづけをマスターできるになるだろう。さらに、タイトルづけを練習し、習慣づけることで、要点をまとめる力が養成される。その結果、的を得たスピーチ力が培われ、あなたは「あの人の話は分かりやすい!」と評価されることになるだろう。
スピーチ・プレゼンにタイトルは必要だ。タイトルをつけることによって、より聞き手の興味を喚起することができるからだ。また各論にもきちんとタイトルをつけることで構成がシンプルでわかりやすくなる。タイトルづけを練習し、習慣づけることで、要点をまとめる力が養成される。その結果、的を得たスピーチをする能力が培われる
スピーチ・プレゼンにタイトルは必要だ。タイトルをつけることによって、より聞き手の興味を喚起することができるからだ。また各論にもきちんとタイトルをつけることで構成がシンプルでわかりやすくなる。タイトルづけを練習し、習慣づけることで、要点をまとめる力が養成される。その結果、的を得たスピーチをする能力が培われる