「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。
私は2024年に、世界最大級のプロフェッショナルスピーカー協会、National Speakers Associationが認定するエリート・プロスピーカーの称号、Certified Speaking Professional (CSP® )を、日本人として同団体史上初めて受賞しました。(CSP®とは?はこちら)
現在、基調講演者として現役登壇を続ける傍ら、日本人の企業トップから起業家、ミスコン出場者、中高生に至るまで幅広く個人コーチングをさせて頂いているのですが、多くの方々に共通する落とし穴が歴然として見えてきます。
それは「英語スピーチを上達させるには、英語をもっと上達させねば」、「英語の表現を学ばねば」、といった声です。
帰国子女でも何でもないノンネイティブ純ジャパの私が、アメリカのスピーキング業界で最前線に立って英語スピーチを行い続けている経験から、はっきり申し上げます。
それは間違いです!!
なぜ英語スピーチの上達=英語の上達ではないのか。
一言で言うならば、「英語スピーチ原稿と読み物の原稿は作り方が違う」からです。
多くの方々が「こうだ!」と勘違いしている3つの観点から解説していきます。
1.「正しい文章構成にすべき」は二の次。音・リズム感重視で!
まず、スピーチ原稿と読み物の原稿との最大の違いは、スピーチは「耳」から情報が入り、記事や本などの読み物は、「目」から情報が入る、という点です。
読み物のように文字を目で追いながら情報を得る場合は、必要とあらば何度でも読み返すことができます。そして、情報を取り込むスピード(つまり読むスピード)も自分でコントロールしながら情報を順に一つずつ頭に入れていくことができます。
一方でスピーチの場合は、「耳」からしか情報は入ってきません(パワポなどの投射資料は「目」から情報が入りますが、視覚情報は聴覚情報より強力な影響を及ぼす傾向にあるため、投射資料は聴覚情報と連動させ、連動していない情報は一切そぎ落とす必要があります。これについての説明はまた別の機会に。)。つまり、聞き手は、情報を聞き返したり、自分のスピードに落として聞いたりすることは一切できません。聞き手の耳に、頭に、心に、しっかりと情報が伝わるかどうかは、話し手にかかっているのです。ですからスピーチ原稿の場合、聞き手の耳から入る情報を、「リズミカルな音」に仕立て上げることで、伝わりやすく情報を伝える必要があるのです(そうです、「伝わりやすく」「伝える」、です。ただ「伝えた」では「伝わった」にはなりません!)。
最もよくありがちなのは、関係代名詞 (which) や接続詞 (but、and) などを使って追加情報を繋げるケースです。文法的には適切な構造になっていますし、目で読んでいる場合は全く気になりませんが、耳からだけ聞いていると、一文が長くなってしまい、一瞬で情報が頭に入ってきづらくなります。スピーチの場合は聞き返しができませんから、聞き手がその情報を聞き逃してしまったら、それでおしまい。一発勝負です。
また、読み物としては違和感もなく、「正しい」単語でも、会話ではそんなかしこまった表現しないよね?!というような「きちんとした英語」を使ってしまう、というケースも良く見られます。でも耳から入るスピーチは、聞き手との対話をするものですから、「難しいきちんとした単語」ではなくて、すこしカジュアルな「会話調」「口語調」の方が、圧倒的にききとりやすくなります。
このように、文法的な正しさを求めるがゆえに、スピーチとしては分かりずらくなってしまう、という落とし穴から抜け出すためのコツとしては、下記の3点を意識すると良いでしょう:
- 一文を短くする:読み物としては短い文章がとぎれとぎれにつながっているようで違和感を感じたとしても、スピーチとしてはその方が格段に聞き手が受ける印象が良くなります。
- 韻を踏むような単語が使えるならば活用する:同じ音から始まる・終わる単語に言い換えられるか、”同義語辞典:などで調べてみましょう。
- 並列な情報が並ぶならば、同じような長さ・リズム感で情報を並べる:特に、なにか2つ3つ、並列に情報を並べる場合は、長さも揃え、リズム感よく聞けるように意識をしてみましょう。
例えば以下のようなイメージです
X 読み物ならOK、”文法的に正しい”文章構成
I had a piece of knowledge that people tend to work autonomously with a minimum guidance by their bosses in Europe. Theoretically I knew it but I couldn’t actually behave based on such knowledge. Unconsciously I worked in a Japanese way all the time, which was not needed or appreciated, not alone, praised in Europe, but acting as Japanese was the only way I knew how, which was a mistake I now realize.”
もし、英語の先生や英会話塾のネイティブの先生に添削をお願いしたのなら、このような文章でOKが出ることでしょう。でも、耳から入る音、として考えた場合、そして、スピーチは対話である、ということを意識した場合、
・I had a piece of knowledge that… ⇒I knew の方がすっきりします
・Work autonomously with a minimum guidance ⇒”きちんと”した正しい英語表現ですが、つまりこれはどういうことでしょうか?”最小限なガイダンスで自主的に仕事をする”→個人ベースで仕事をする、つまり、”Individual-oriented”、そしてその逆は、”Group-oriented”という単語で表現すると、すっきりし、かつ、韻を踏んでいてリズム感も良くなります。
・Theoretically : これもきちんと”した正しい英語表現ですが、そもそもTheoreticallyという必要はあるでしょうか?日本人にとっては発音もしずらいのではないでしょうか?ならばいっそのことそぎ落としてしまった方がすっきりします
・最後の文章”….which was….not alone….but….which was…” :長い!!(笑)。いくつかの短い文章に切りましょう。
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〇 ”音・リズム感重視”のスピーチ原稿
In Europe, people are individual-oriented. In Japan, people are group-oriented. I knew it.
But I couldn’t help working in a Japanese way. That was a huge mistake in Europe.
No wonder, in the eyes of my European boss, I was useless.
どうでしょう?
是非声に出して、前のバージョンとこちらのバージョンを言い比べてみてください。
短く、会話調で、リズム感も良くなっているのがお分かりかと思います。そして言いたいことはしっかり伝わっていますよね?むしろ伝わりやすくなっているかと思います。
2.「正しい文法を使うべき」は二の次。言いやすさ重視で!
これはノンネイティブ特有の課題なのですが、ネイティブには全く問題なくスムーズに発音でても、ノンネイティブの口ではスムーズに言えない単語の組み合わせがあったりします。
例えば私の基調講演の中で、オリジナルの原稿では、「Someone proposed an ambitious plan」というセリフがあったのですが、声に出して練習してみると、「an ambitious」というのが100発100中スムーズに言えませんでした。そこで、「Someone proposed some ambitious plan」に変えたところ、100発100中スムーズに言えるようになったため、こちらに変更しました。
コーチングをさせていただいている日本人の方には、「英語がさほど得意ではないが、グローバルな場で英語でスピーチしなければいけない」という方も多くいらっしゃいます。そんな場合、たとえ文法的に少しずれていたとしても、あえて正確な文法を外して、音がしっかりと聞こえるように文章を構成することがあります。
例えば、
- 複数形であるべきところを、あえて単数形にする(”challenges” → “challenge”)
- 過去形であるべきところを現在形にする(”I learned” → “I learn”)
これによって、舌が絡まず、話しやすくなり、結果として聞き手にとっても理解しやすくなります。
もしその文章を英語の先生に見せたら、
「これは文法ミスです! このスピーチコーチの言うことは間違っていますね!」
と指摘されることでしょう(笑)。
でも、スピーチの目的は、「正しい英語を話すこと」ではありません。
「大切なメッセージを伝えること」 です。
だからこそ、「ノンネイティブの英語が耳から聞いてしっかり伝わるかどうか」 を最優先に考えるべきなのです。
そのためには、時には文法的な正しさを一旦脇に置き、「自分がスムーズに話せる」 ことを重視する。
それが、ノンネイティブにとって、より効果的なスピーチの鍵となります。