なぜ受け身? 日本人が英語を書く時に注意すること。円滑な異文化コミュニケーションを目指して

なぜ日本人は受け身を好むのか? 英語で文章を書く(話す)際、文化的な背景や日本語自体の文法的な制限が言語表現に大きく影響を及ぼすことがある。特に、日本人が英語の文章で、受け身を頻繁に使用する現象は、多くの非日本人から見れば不思議に思われるかもしれない。そこで、今回の記事では、その背後にある理由を探りたい。

 考えられる理由としては、いろいろあるが、その中でも影響が大きいと思われるものをここでは、3つ指摘したい。最初に挙げたい点は、日本では、直接的な表現よりも間接的な表現が好まれることが多く、これが受け身の使用につながることが一因。さらに、日本語の文法構造は、英語への翻訳時に受け身が自然と選ばれる状況を作り出していること。最後に、英語の無生物主語という概念が日本語にはないため、これも受け身を使う理由となっている点を考慮しながら、一緒にこの問題を考えていきたい。

 この記事によって、文化的・言語学的な側面からこの現象を探り、日本人が英語の文章を書く際になぜ受け身を多用するのかを解説し、さらにそれは直接そのまま、翻訳の時に、なぜ英語らしくない英語表現が生まれてしまうのかを考えるのに役立つだろう。

率直な表現を避けたい心理が作る受け身表現

 日本文化において、直接的な表現はしばしば避けられる傾向にある。これは、社交的な調和を重んじる文化的背景から来ている。日本では、言葉による直接的なアプローチが相手に対して過度の圧力や不快感を与えると考えられており、例えば、自分の主張を述べる時でも、「思われる」というような受け身の表現が好まれる

 これは、自分の意見をあくまで一個人の考えとして提示し、相手に対する圧力を和らげるためだ。日本人は、自分の意見を断定形で述べることが、しばしば相手への配慮を欠く行為と見なされがちで、このため、自分の主張を柔らかい表現で「包む」ことで相手に対する敬意を示す文化が根付いている。それは、ちょうど、人にお金を渡す時に何かの包みに入れるのと似ている。

いくらかでも社交の意味合いのこもった金を贈るとき、むき出しの金ではいけないのは常識である。

思われる」と「考える」外山 滋比古著より

 この文化的習慣は英語の使用にも影響を及ぼす。例えば、科学論文において、「AはBである」というべきところを、日本人は「であろう」という表現を用いることが非常に多い。これは英語でいう”It seems to me”や”It is believed”といった表現に類似しているが、日本人の場合、それは単なる慎重さからではなく、相手に対する礼儀としての機能を果たしている。また、謙虚さを尊ばれる日本文化の影響もあるだろう。英語話者が見ると、これらの表現は自説に自信がないように受け取られがちだが、実際には確かな根拠に基づく意見であることがほとんどだ。なぜなら、それは科学論文なのだから。

 このように、日本人が英語で受け身を用いる傾向には、謙虚さを尊び、言葉を直接的に用いることの避ける文化的背景が大きく影響している。私たちの言語使用におけるこの「包む」心理は、単に言語的な特徴を超え、深い文化的意味を持っているのだ。

主語の省略が受け身をつくる

 日本語の表現においては、しばしば主語(主体・トピック)が省略されることがある。これは、話の文脈がすでに共有されているという前提のもと、あまりにも「当たり前」なので言及する必要がないとされるためだ。しかし、この言語的特徴が英語への翻訳や文章作成において、特定の弊害を生じさせる場合がある。

 次の例を見てみよう。日本語で

「家でペット飼ってる?」という質問に対して、「ネコを飼ってるよ」と答える場合、

この文章は、実際には「私はネコを飼っている」という文の「私は」が省略されている状態だ。この状態で英語に直訳する際、

「A cat is kept in my family.」(受動態)

となりがちだ。なぜなら、目的語「ネコ」が最初に頭に浮かぶため、また文章的にも最初に位置する単語が「ネコ」だから、こういう表現になってしまう。しかし、この表現は文法的に正しいものの、英語としては自然さに欠ける。では、より自然な英語表現は何かと言うと、

「We keep (have) a cat in our family.」(能動態)

となる。さらに、

「SNS (ソーシャルネットワーク) において友達を作ることが容易である」

という表現を考えた場合、英語でこれを直訳すると

「Friends can be made easily on social networks.」(受動態)

という文を作る生徒が大勢いる、と、大学で英作文を教える人から聞いたことがある。これも受動態の表現だ。ここでも、日本語では「友達を作るのは容易だ」という文章の主語(私たち)が省略されている。より自然な英語では

「We can make friends easily on social media.」

となり、主語を明確にすることが必要になる。

 このような日本語の特性を理解し、英語での表現に適切に変換するためには、日本語の隠れた主語を意識する訓練が重要だ。英語学習者は、主語を明示的にする訓練を積むことで、より自然で理解しやすい英語の文章を書く能力を高めることができる。

 日本語でコミュニケーションをとるにしても、外国人と話す時は、主語を明確にしてあげる方が、相手は、日本語を理解することがより容易になることを理解して欲しい。

 この認識を深めることで、日本人が英語を書く際の自然さを向上させ、文化間のコミュニケーションの障壁を減少させ、グローバルに活躍することが可能になるだろう。

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生命のないものが主語になるなんて考えられない!

 まず、これらの事項を考える上で参考になった文献があるので、ご紹介しておこう。  木村郁子, なぜ日本人学生の英作文に受動態表現が多いのか? 言語文化論叢千葉大学言語教育センター, 2013.

 さて、日本語と英語の文法構造の違いは、外国人とのコミュニケーションを考える際には、しばしば大きなチャレンジとなる。特に、英語における無生物主語の使用は、日本語の文法と大きく異なる部分だ。無生物主語とは、物や概念など、生命のないものが文の主語となる場合を指す。英語では無生物がアクションを起こす主語として頻繁に用いられるが、日本語ではこの用法が自然とは感じられない場合がかなり多い。

 例えば、英語で

「The store opens at eight a.m.」(店は午前8時に開く)能動態で自動詞

「The power plant stopped generating electricity」(発電所は発電を停止した)

という文は、無生物が主語としてアクションを起こしている。

これに対し、日本語では無生物を主語にしてアクションを表すことが少なく、そのため日本語話者が、これを表現する場合、

「The store is opened at eight a.m.」受身で他動詞

「The power plant was stopped generating electricity」

と受動態を用いることがしばしば見受けられる。

 実は、私も大学院に留学して最初の頃、上の二つの文章、受動態にすべきか、能動態にすべきか、迷っていた。最初、周りでは、みんな自動詞を使って会話しているので、The store opens…を思い浮かべるのだが、「いや、待てよ、お店が勝手に店を開けるのではなく、人が開けるのだから、これは受け身にすべきだろう」と考えて、何かの文書に書くときは、The store is opened…にわざわざ書き直したものだ。ところが、後で、ネイティブスピーカーの友人に「それはおかしい。意味が違うよ」と指摘されて、やっと違いがわかった次第だ。

 確かに、この表現は、日本人にとっては、無生物がアクション起こすとは考えられずに、そのアクションを受ける対象として考えてしまうので、なんとなく受け身の方が正しいと感じてしまうのかもしれない。しかし、これは、自動詞か他動詞かの違いで、文法的には間違っていないかもしれないが、英語のネイティブスピーカーは、このような表現をしないので、不自然だと感じるのだ。

 では、なぜ不自然と感じるかについては次の通り。

  1. 文化的・慣用的な使用パターン: 英語のネイティブスピーカーは、「The store opens at eight a.m.」を一般的には自動詞の「open」を使用して表現し、この場合は、こう、というパターンが決まっている。どの自動詞が無生物主語として使えるかが、だいたい決まっているので、それに反した表現は不自然だと感じる。

  2. 受動態と能動態ではニュアンスが変わる: 英語では、自動詞と他動詞の選択が文の意味に大きく影響する。自動詞は主語が自発的に行う行為を示し、他動詞は主語が何らかの対象に対して行為を行うことを示す。「The power plant stopped generating electricity」という文は、自動詞「stop」を用いることで、発電所自体が発電を停止したことを示す。これに対し、「The power plant was stopped generating electricity」とすると、文法的には間違っていないものの、他動詞を使用しており、何者かが発電所を停止させたかのようなニュアンスが生じ、通常の状況で使われる表現とは異なる。同様に、「The store is opened at eight a.m.」と受け身で表現すると、他動詞としての「open」を使っているので、何者かによって開けられるという、第三者の存在が言外に示唆されることになってしまう。例えば、セキュリティが店を開ける場合や、刑事ドラマ的には犯罪者の存在がチラつくなど、特定の状況以外では不自然に感じられてしまう。

  3. 文の明快さと流暢さ: 英語のネイティブスピーカーは、通常、情報を明確かつ効率的に伝えるために、文の構造を選ぶ。不必要に受動態を用いると、文が冗長になり、情報の伝達が効率的でなくなるため、不自然と感じられることがある。また、言語のリズムや調和が重要であり、その文化的な使用感に合わない表現は避けられる傾向にある。

 このような不自然さを避けるためには、無生物が主語となって自動詞を用いる英語表現を理解し、適切に活用する訓練が必要だ。例えば、日本語でも「門が開く」のように無生物主語+自動詞の形で表現可能だが、この構造を英語に適用する際には、どの自動詞が無生物主語として使えるかを学ぶことが大切だ。

 日本語話者が英語でより自然な表現を行うためには、無生物主語を用いた文を作る訓練を積むことが効果的。また、どの自動詞や他動詞が無生物主語として適切かの比較学習も有効な方法となる。このような練習を通じて、無用に受動態を用いることなく、英語らしい表現をマスターすることが可能となるだろう。

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受動態の特徴を理解して、グローバル舞台で活躍しよう

 本ブログで掘り下げてきたように、日本人が英語の文章を書く際に受け身を多く用いてしまう傾向には、日本語の文法的特徴と文化的背景が深く影響することが分かった。直接的な表現を避ける文化的傾向と、主語の省略が一般的な日本語の構造は、英語での受動態の多用につながっている。これが、外国人とのコミュニケーションや翻訳機を用いたテキストの理解に際して、しばしば誤解や不自然さを生じさせる要因となっている。

英語の自然な表現を身につけ、効果的な国際的コミュニケーションを実現するためには、日本人英語学習者が以下の点に注意することが重要だ。:

  1. 受動態と能動態は意味は同じではないことを理解する:受動態が必要な場合とそうでない場合を区別し、そのニュアンスの違いを把握する。さらに、無生物主語が使える自動詞を学習し、そういう表現を活用すること。
  2. 直接的な表現の積極的な採用:日本の間接的な表現に代わり、英語では直接的な表現が好まれることを理解し、それに従った文章作成を心掛けること。しかしながら、直接すぎて無礼になる場合も時にはあるので、より深い学習が求められる。英語にも敬語があることを理解することも同様に大切。(下記の参考記事を参照されたい)
  3. 翻訳ツールの効果的な利用:翻訳機を用いる際は、その翻訳が自然な英語になっているかどうかを再確認し、必要に応じて調整を加えること。また逆に、元の日本語を能動態に変えたり、主語を明記したりする工夫もアリだ。

 最終的に、英語の受動態と能動態の使い分けを理解し、それを自分の言語表現に取り入れることが、国際舞台での効果的なコミュニケーションにつながるだろう。外国人との円滑な対話と翻訳技術の上手な利用は、グローバルな環境において成功するための鍵となる。さらに、日本語自体の発想を変えていくことで、より円滑なコミュニケーションを実現できることに繋がっていくだろう。

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