「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。
効果的なクロージングの方法は、こちらの記事でも3つの手法をご紹介しているのですが、
実はブレイクスルー・メソッドでは、6つのクロージング手法について教えています。
上記の記事にはない、もう1つのクロージング手法が、エマ・ワトソンが2014年に国連で行ったスピーチに使われている手法です。
今回はエマ・ワトソンが使っていたクロージング手法について解説します。
当メディアで解説済のクロージング手法をおさらい
1.Call-to-action(行動喚起)
ビジネスの場合でもそうでない場合でも、最も汎用性の高いクロージング手法と言えるのが、Call-to-actionです。
とくにビジネスプレゼンにおいては、相手を動かしてなんぼです。契約にサインしてもらう、購入してもらう、というような大きな行動だけでなくて、次のミーティングにこぎつけたい、意思決定者を紹介してもらいたい、まずはウェブサイトを見てほしい、メルマガにサインアップしてほしい、などなど、小さな行動でもいいんです。聞き手視点を忘れず、聞き手が最も行動に移しやすい環境を考えながら、たった一つの具体的なネクストステップを提示するのがポイントです。
2.Circular Method(サーキュラー手法)
サーキュラーとは、サークル、つまり円を描くように、最初の基点に戻る手法のことです。
例えば、冒頭で使った同じ表現、言葉、画像などを、最後でも使うことで、元の起点に丸く戻すことができ、スピーチ・プレゼン全体としてとてもきれいにすっきりとまとまります。丸くなるように、最初と終わりを結び付けてあげる、というこのサーキュラー手法は、プレゼントにリボンを結ぶようなイメージかもしれません。プレゼンは、情報をワンビッグメッセージとして相手にプレゼントすることです。そのワンビッグメッセージというプレゼントに、リボンをかけてあげる気持ちになってください。最初の片方を丁寧に扱って、最後の片方にしっかりと結び付けてあげる。そんなイメージです。
3.Quotation(引用句)
引用句を一番最後に持ってくる手法です。ここでポイントとなるのは、これまであなたの言葉で伝えてきたワンビッグメッセージが、他の人の言葉に置き換えてしっかりと同じ意味を伝えられているか、ということです。ただカッコ良さそうに聞こえる、だけで引用句を選んでは逆効果です。
皆さんも色々な引用句をご存じだと思いますが、有名な引用句というのはやはり印象強く、韻を踏んでいるものもあったりして覚えやすいフレーズになっています。その力を借りて、パワフルなクロージングに持って行くことができるのが、引用句の効果です。更に、有名な人物の引用句の場合、クレディビリティー、信頼性を高めることにも貢献します。ただし、引用句は、必ずしも有名なもの、著名人のモノである必要はありません。逆に使われすぎているために、印象としては逆に弱くなることもあるのです。もしかすると誰も知らない、例えばあなたの両親や祖父母、あるいは子供が言った言葉であなたに大きなインパクトを与えたものがあるならば、著名人の引用句よりも何倍もの威力を発します。
エマ・ワトソンも使っていた、4つ目のクロージング手法とは?
さて、エマ・ワトソンの国連スピーチに戻りましょう。
エマ・ワトソン はUN Women 親善大使として、国連本部で開催された #HeForShe キャンペーン発表会でスピーチを行いました。 ジェンダー平等を達成するため世界中の男性のコミットメントを求める内容です。
クロージングの前に、このスピーチのオープニングを見てみましょう。
Today we are launching a campaign called for HeForShe. I am reaching out to you because
we need your help. We want to end gender inequality, and to do this, we need everyone
involved.今日私たちは、HeForSheというキャンペーンを始動します。皆さんにもお願いがあります。皆さんの助けが必要なのです。私たちは男女差別を終わらせようと思っています。そしてそのためには、すべての人が関わらなければなりません。
不必要な前置きは一切そぎ落とし、冒頭からストレートにメッセージを伝えています。
一方で、このキャンペーンはフェミニズム強化のものではないか、男性はどうやって関われというのか、あるいは、このような大きなムーブメントは、自分一人が動いても無力だから、誰か力のある他の人たちが推進してくれるものだろう、というような考えがよぎる人たちがいるかもしれません。
それを払拭すべくこのスピーチは進んでいき、クロージングで、今一度、「なぜ、今、あなたが、かかわる必要があるのか」を印象付けます。
そのために使われた手法が、パワフルな質問、です。
4つ目のクロージング手法:パワフルな質問
まずはどんなクロージングだったのか、見てみましょう。
If you believe in equality, you might be one of those inadvertent feminists that I spoke of
earlier, and for this, I applaud you. We are struggling for a uniting word, but the good news
is, we have a uniting movement. It is called HeForShe. I invite you to step forward, to be seen
and to ask yourself, “If not me, who? If not now, when?”もし皆さんが平等を信じるのなら、皆さんは、私が先ほどお話しした、無意識のフェミニストです。そして私はそんな皆さんを称賛します。私たちは共通の言葉で苦労しています。でも良い知らせがあります。私たちは連帯したムーブメントを持っているということです。それがHeForSheです。私は皆さんを一歩前へとお誘いします。声を上げるために。そして皆さん自身が、こう尋ねることを。
自分でなければ、誰が?
今でなければ、いつ?
この最後の質問が、パワフルな質問です。
なぜ、ただの「質問」ではなくて「パワフルな質問」なのかというと、ただYes, No,で単純に答えられるようなものではなく、考えを深めたり広げたり進めたりする効果がある質問であるからです。
このパワフルな質問は、オープニング手法としても効果的なのですが、オープニングに使うパワフルな質問は、ワンビッグメッセージに繋がる導入として興味を惹かせ、自分事に当てはめて考えさせるのに対し、クロージングに使うパワフルな質問は、スピーチ・プレゼンを通して伝えてきたワンビッグメッセージを、最後のとどめ(?)として焼き付ける役割があります。
クロージングに至るまでの間にしっかりとワンビッグメッセージが伝わっていれば最後のパワフルな質問では、すべての観客の頭の中に、ワンビッグメッセージが回答として浮かび上がってくるはずです。
エマ・ワトソンのスピーチの場合は、
自分でなければ、誰が?→私しかいない
今でなければ、いつ?→今しかない
という回答が、聞き手の頭の中に浮かぶはずです。
観客全てが、最後に同じ答えが頭の中に浮かべば、まさに、たった一つのワンビッグメッセージを伝え、伝わることに成功した、と言えましょう。
ワンビッグメッセージは、伝えるだけでなく、伝わった、ことが何よりも重要なのです。
エマ・ワトソン はUN Women 親善大使として、国連本部で開催された #HeForShe キャンペーン発表会でスピーチを行いました。 ジェンダー平等を達成するため世界中の男性のコミットメントを求める内容です。このスピーチのクロージングが秀逸でした。ブレイクスルー・メソッドに当てはめて解説していきます