米国プロスピーカーが振り返る!ヒラリーとマケイン過去の名敗北宣言

「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。

大接戦となっているアメリカ大統領選挙。

11月3日の投票から3日たった11月6日現在、いまだ結果が出ていません。

が、6日(金)午後現在、ようやく終わりが見えてきました。

敗北宣言とは

敗北宣言とは、大統領選挙で敗者が行うスピーチの事です。

英語ではConcession Speechと呼び、開票が全部終了し、勝者が決まると、必ず次期大統領が勝利宣言を、敗者は敗北宣言を行います。

1896年に敗れた民主党のウィリアム・ブライアンが共和党のウィリアム・マッキンリーへ祝電を送ったことから始まったと言われており、以後続いてきた習慣です。しかしながら、法律ではないため、敗北宣言をしなければならない、という決まりにはなっていないことから、トランプ大統領は敗北宣言を行わない初の大統領になるのでは、とみられています。

敗北宣言は最も難しいスピーチの一つ

敗北宣言は、おそらく最も難しいスピーチの一つではないかと思います。

なぜならこのような状況では、「負け」や「失敗」を世界の公衆の面前で認めなければならないだけでなく、感情的になっている聴衆をなだめ、納得させなければなりません。そして、このようなスピーチは、リーダーシップ力のみならず、人間性が試されるからです。

一般の我々にとって最も近いのは、危機的状況に陥った際の謝罪会見や、リストラなどのネガティブな情報をリーダーとして伝達しなければならないケース、でしょう。

過去の敗北宣言を振り返ってみると、どの候補者も、潔く、気品と威厳を保ち、団結と次期大統領へのサポートを謳いながら、悲嘆にくれる支持者たちの心を動かすスピーチがほとんどでした。

今回の敗北宣言ではそのような気品が保たれるかどうか分かりませんが、これまでで私の在米生活の中で最も印象に残っているヒラリー・クリントン氏とジョン・マケイン氏の2つの敗北宣言について、解説します。

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2016年 ヒラリー・クリントンの敗北宣言

ヒラリー・クリントン氏の敗北宣言は、今でも鮮明に覚えています。

「ガールパワー」の敗北に、子供たちまでもが落胆

ヒラリーの敗北は、多くのアメリカ市民にとっても大きな落胆となりました。歴史上はじめて、「ガラスの天井」を破ることができる…!そんな夢と希望をヒラリーに賭けていました。投票日の翌日、当時まだ5歳だった娘のクラスメートたちまでもが、「ガールパワー」が敗れたことに落胆し、信じられない、という話をしていたほどです。

服装(色)にもメッセージを込めたヒラリーの敗北宣言

アメリカ国内のみならず、世界中の多くの人々が落胆を感じていた中で、ビル・クリントン、チェルシー・クリントンと共に登場したヒラリーは晴れやかな笑顔を終始絶やさず、威厳を保ち、気品さえ感じられる姿で登場しました。

登場と同時に印象強かったのは、ヒラリー、ビル共に、明るい紫を身につけていたことです。紫は、”赤”(共和党の色)と”青”(民主党の色)を合わせた色です。そこに”Unity”、つまり、”統合”のメッセージを込めていました。

そして、彼女は希望、機会、信念、にフォーカスしたメッセージを強く投げかけました。

ヒラリー・クリントン敗北宣言(2016年)での名セリフ

彼女の実際のスピーチから、印象に残るセリフを3つご紹介します。

“Our campaign was never about one person or even one election, it was about the country we love and about building an America that’s hopeful, inclusive and big-hearted.

(我々のキャンペーンは、一人の人間、あるいは一つの選挙について、では決してありませんでした。これは我々が愛する国についてであり、希望を持ち、包括的で大きな心を持つアメリカを築き上げていくということです。)

“To the young people in particular, I hope you will hear this. I have spent my entire adult life fighting for what I believe in. I’ve had successes and I’ve had setbacks. Sometimes, really painful ones. Many of you are at the beginning of your professional public and political careers. You will have successes and setbacks, too. This loss hurts, but please never stop believing that fighting for what’s right is worth it. It is- it is worth it.”

(特に若者たちに聞いてほしい。私は大人になってから、自分が信じることのために戦うために人生をささげてきました。成功もしたし失敗もしました。中にはとても痛い失敗もありました。あなた方の多くは、社会での、政治上でもキャリアが始まったばかりでしょう。あなた方も成功と失敗を経験するはずです。敗北は痛いものです。それでも、正しいことのために戦うことは価値あることだ、と信じることを決して辞めないでください。本当に価値あることなのです。)

“To all the little girls who are watching this, never doubt that you are valuable and powerful and deserving of every chance and opportunity in the world to pursue and achieve your own dreams.”

(これを見ている幼い少女たちへ。あなたたちは貴重な存在でパワフルで、そして、あなたの夢を実現するために、世界中のどんなチャンスやオポチュニティーも受け取るべき存在であること、決して疑わないでください。)

そして、次期大統領に決まったドナルド・トランプ氏に対し、”オープンマインドな心で、この国を率いるチャンスを彼に与えましょう”と呼びかけました。

敗北直後にもかかわらず晴れやかな笑顔、「非言語メッセージ」で伝えた威厳と気品

人生をかけてきた戦いに敗れた数時間後に、このような言葉を紡いでいくことは、どんなに心が張り裂ける思いだったか。

にもかかわらず、ヒラリーは、終始晴れやかな笑顔と落ち着きを欠かすことはありませんでした。威厳と気品すら感じられました。

彼女の敗北宣言の秀逸さは、選ばれた言葉そのものももちろんですが、非言語メッセージにもあります。

ヒラリーの非言語のマジックー「メラビアンの法則」

メラビアンの法則とは

メラビアンの法則とは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学者、アルバート・メラビアンの「7-38-55コミュニケーションモデル」のことです。

人はコミュニケーションを取る際、影響される要素は「見た目/表情/しぐさ/視線」などの視覚情報が55% 、「声の質/話す速さ/声の大きさ/口調」などの聴覚情報が38%、「言葉そのものの意味/話の内容」などの言語情報が7%、つまり、「非言語」に影響される割合は93%と言われています。

とはいえ、スピーチはまず「言語」があってこそ

ただし、カン違いしたくないのは、「じゃあ言語はなんでもいいんじゃないか」と考えてしまうことです。

私たちがスピーチ指導(ブレイクスルー・メソッド)でも多くの時間を費やすのは、思考の整理を通したメッセージの明確化です。

それができた段階で、戦略的に選ばれた言語メッセージを「伝える」段階になったとき、影響されるのが「非言語」である、ということです。

「明確な言語化+戦略的な非言語メッセージ」で「良質」から「秀逸」へ

ヒラリー・クリントンの敗北宣言では、紫色から立ち居振る舞いまで含め、この「非言語」から発せられたメッセージが非常に秀逸でした。

我々一般人は全国、あるいは全世界に向けてメッセージを発信する、という機会はなかなかないかもしれませんが、気づかないうちに発している「非言語メッセージ」も、戦略的に組み込んでいくことが大切です。

2008年 ジョン・マケインの敗北宣言

ジョン・マケインの敗北宣言も、彼の誠実な人間性にあふれた素晴らしいものでした。

この大統領選も歴史的なもので、初めて黒人大統領が誕生した選挙でした。

マケイン氏は冒頭から、バラク・オバマ氏の健闘と能力、人間性を讃えました。観衆からすぐにブーイングが起こるも、それを制し、自分とオバマ氏の共通の信念にフォーカスしながら、自身の支援者たちに、次期大統領を心の底からサポートするように呼びかけました。

ジョン・マケイン敗北宣言(2008年)での名セリフ

彼の実際のスピーチから、印象に残るセリフを3つご紹介します。

Sen. Obama and I have had and argued our differences, and he has prevailed. No doubt many of those differences remain. These are difficult times for our country, and I pledge to him tonight to do all in my power to help him lead us through the many challenges we face. (オバマ氏と私は異なる意見で討議を戦わせてきたが、彼が勝った。これらの違いはこれからもなくならないだろう。この国は今大変な時期にある。だから私は、我々が直面する多くのチャレンジを乗り越えるために全力で彼をサポートすることをここに誓う。)

I urge all Americans who supported me to join me in not just congratulating him, but offering our next president our goodwill and earnest effort to find ways to come together, to find the necessary compromises, to bridge our differences and help restore our prosperity, defend our security in a dangerous world, and leave our children and grandchildren a stronger, better country than we inherited. (私を支持してくれたすべてのアメリカ国民にも、願いたい。彼の勝利を祝うだけでなく、次期大統領である彼に対し、我々のグッドウィルと誠意ある努力をもって、統合し、必要な妥協点をみつけ、違いを超えて我々の繁栄を取り戻し、この危険な世界で我々の安全を守り、我々の子孫たちに、強く、よりよい国を残していくため、みなさんにも協力してほしい。)

更にマケイン氏は、オバマ氏だけでなく、彼を「立派な人間」に育て上げた祖母にも敬意を表しています。

そして、このように、アメリカ市民としての誇りを持ったメッセージで敗北宣言を締めくくっています:

Americans never quit. We never surrender. We never hide from history. We make history.”

(アメリカ国民は決して辞めない。決してあきらめない。歴史から隠れることも決してない。我々は歴史を作って行くのだ。)

マケインの敗北宣言が秀逸な理由

冒頭から、この最後のメッセージまで、マケインの敗北宣言には、元海軍航空士官であり、愛国心の強い人物らしい、誠実な人間性と愛国心が一貫して溢れていました。

これこそ、「ジョン・マケイン」のリーダーシップスタイル、あるいはセルフブランド、です。

皆さんの「セルフブランド(=自分らしさ)」は何でしょうか。

まだスピーカーとして駆け出しの方なら、自分が尊敬する理想のスピーカーやリーダーから多くを学ぼうとするかもしれません。

その通り、多くを学ぶことができるでしょう。

ただし、彼らの真似をすることと同義ではありません。

ワンランク上のスピーチに求められる「セルフブランド(=自分らしさ)」

いくら彼らの真似をしたとしても、それは所詮、「真似」で終わります。自分のユニークさ、自分らしさはどんなところにあるのでしょう?

ワンランク上のスピーカーになるには、自分ブランドを追求することも大切なことなのです。

まとめ

私はあらゆる業界のリーダーの方々に、スピーチ・プレゼンの個人コーチングや戦略コンサルティングで、直接お話をさせていただく機会が多くありますが、素晴らしいリーダーだなと思う方に共通していることがあります。

それは、謙虚で学びを忘れず、そして自分らしさをさらけ出すことを恐れない、ということです。

何も、おのれをかっこつけたり、良く見せたりする必要もないのです。「ありのまま」をさらけ出す勇気が必要なのです。

敗北宣言はまさに、「人間力」が問われるスピーチです。非言語から伝わるコミュニケーションの細部に至るまで意識を張り巡らして、落胆する国民を鼓舞したヒラリー・クリントン、そして、人生をかけて貫き通してきた強い信念を前面に伝えたジョンマケインのように、自分自身の負けや失敗もそのまま受け止め、ありのままをさらけ出して自分らしさを発揮することができる人こそ、真のリーダーと言えるのではないでしょうか。

 

 

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