スピーチが「まとまらない」ときに試したい、紙とハサミで構成を立て直す方法

“信元夏代のスピーチ術” 編集長、プロフェッショナルスピーカーの 信元です。「スピーチが、なんだかまとまらない」「結論をどう書けばいいかわからない」「アイデアが出てこなくて、もう手詰まりだ」——こうした悩みをお持ちの方に、共通してお伝えしていることがあります。それは、ほとんどの場合、問題の本質は「構成」にあるということです。今回は、家を建てるときの「骨組み」のように、スピーチの土台となる構成を立て直すための、ユニークなエクササイズをご紹介します。紙とハサミ、たったそれだけで取り組める方法です。

この記事でわかること

  • スピーチがまとまらない原因は、ほとんどが「構成」にあるという考え方
  • 構成が崩れると、なぜスピーチ全体が機能しなくなるのか
  • 紙とハサミで構成を立て直す「切って並べ替える」エクササイズの手順
  • このエクササイズがOne BIG Message®の発見にどう役立つか

スピーチの問題は、ほとんどが「構成」の問題です

家を思い浮かべてみてください。ドアがうまく閉まらない、配管から水が逆流してくる——こうした不具合のほとんどは、表面的な修理では直りません。原因は、家の「骨組み」、つまり構造そのものにあるからです。

スピーチも同じです。「結論がうまく書けない」「説得力がない気がする」「アイデアが尽きてしまった」「One BIG Message®が何なのか、自分でもわからなくなってきた」——こうした悩みに直面したとき、まず確認すべきは、ひとつひとつの言葉や表現ではありません。スピーチ全体の「骨組み」、つまり構成です。

骨組みがなければ、色んなパーツが一つの箱にごちゃごちゃと投げ込まれたような状態になります。そんな状態では、何が言いたいのか誰にもわかりません。構成が崩れていれば、どれだけ熱意を込めても、どれだけ良いエピソードを入れても、スピーチ全体としては機能しないのです。

ブレイクスルーメソッドでは、スピーチを構成する9段階構成という骨組みを提唱しています。

これは、一貫したOne BIG Message®を軸として全体に横ぐしを刺し、それを3つのメインポイントで支える構造です。オープニングもクロージングも、すべてOne BIG Message®を強化するために存在します。そして各要素の間には、聞き手の興味を惹きつけ続けるための「移行の一文(Transition)」が入ります。骨組みがしっかりしていれば、聞き手は迷わずあなたの話についていけます。でも、骨組みが見えなくなってしまったとき、どう立て直せばいいのでしょうか。

実は、スピーチコーチングの現場では、情報の内容はそのままでも、話す順番を変えるだけでインパクトが大きく変わる、というケースが非常によくあります。動画スピーチEZフィードバックのサンプル動画でご紹介している方の事例も、まさにそうでした。中身を大きく変えたわけではなく、構成・順番を整理しただけで、伝わり方が一変したのです。

「切って並べ替える」エクササイズとは

この方法は、もともとシュルレアリストの詩人たちが行っていた手法です。詩の言葉を切り離し、バラバラに並べ替えることで、新しい意味や響きを見つけ出す——「親しいものを、あえて見慣れないものにする」ことで、当たり前だと思っていたものに、もう一度気づき直すという発想です。

これをスピーチ原稿に応用したのが、今回ご紹介するエクササイズです。準備するものはとてもシンプルです。

  • 印刷したスピーチ原稿(片面のみ)
  • ハサミ
  • セロハンテープ
  • ペン
  • 白紙
  • 作業できる広いスペース

元の原稿データは必ず別に保存しておいてください。これは「実験」なので、思い切って切り刻んでも問題ない状態にしておくことが大切です。

エクササイズの手順

手順1:原稿を「意味のかたまり」に分解する

まず、原稿を小さな「意味のかたまり」に分けます。ひとつのフレーズ、ひとつの単語、長くてもひとつか二つの文で、ひとつの完結したアイデアを表す単位にします。

手順2:ハサミで切り分ける

実際にハサミで切り、それぞれの「意味のかたまり」を一枚一枚の紙片にします。意味のかたまりに入らなかった言葉は、思い切って捨てて構いません。

手順3:それぞれにラベルをつける

各紙片の端に「One BIG Message®」「メインポイント①の根拠」「戦略的ストーリー6つのC™:Conflict(葛藤)の要素」など、その紙片が何の役割を担っているかをラベルづけします。これによって、自分のスピーチの「骨格」が、文字どおり目に見える形になります。

手順4:並べ替える

ここからが本番です。紙片を、意味が通る順番に並べ替えてください。重要なのは、元の構成を再現しようとしないことです。目的は「新しい構成」を見つけることです。オープニングからクロージングまで、聞き手を導く順番を、まっさらな状態で考え直してみてください。

手順5:使わない紙片、足りない紙片に気づく

並べ替えていく中で、「この紙片は使わなくていいかもしれない」と気づくことがあります。それは、その内容がOne BIG Message®に直接関係していないサインです。逆に、「ここに、つなぎの一文(移行の一文)が必要だ」「ここに具体例を入れたい」という「隙間」も見えてきます。その場合は、新しい紙片を書き足してください。

手順6:固定する

気に入った構成が見つかったら、白紙にテープで貼りつけます。スマートフォンで写真を撮っておくのもよいでしょう。

これで、あなたのスピーチの「骨格」が完成しました。あとは、その骨格に肉付けをしていくだけです。一度骨組みが整理されていれば、文章を書く作業は驚くほどスムーズになります。

なぜこのエクササイズがOne BIG Message®の発見に役立つのか

このエクササイズの最大の価値は、「自分が本当に何を伝えたいのか」が、物理的に目で見えるようになることにあります。

文章を頭の中だけで考えていると、どうしても「最初に書いた順番」に縛られてしまいます。文章として書いた瞬間、それが「正しい順番」のように感じてしまうのです。

紙片に切り分けて並べ替えることで、その思い込みから自由になれます。「この紙片とこの紙片は、実は同じことを言っている」「このメインポイントは、本当はOne BIG Message®ではなく、ひとつの根拠に過ぎなかった」——こうした気づきが、物理的に紙を動かす中で自然に生まれてきます。

そして、すべての紙片を並べ終えたとき、「これら全部に共通する、一番大切なことは何か」という問いが浮かび上がります。それこそが、One BIG Message®です。たった一つの視座の高いメッセージに絞り込むための土台が、このエクササイズの中で自然に整っていくのです。

構成の見直しは、一度きりではありません

このエクササイズは、スピーチを書く過程のどの段階でも使えます。書き始める前のアイデア整理の段階でも、書き終わった後の見直しの段階でも、本番直前の最終チェックの段階でも、効果を発揮します。

文章を「書くこと」と「見直すこと」は、別々の作業ではなく、ひとつのサイクルです。波が前に進み、また引いていくように、書くことと見直すことを繰り返す中で、スピーチは磨かれていきます。

もし一度試してうまくいかなくても、それで終わりにしないでください。違うプロジェクトで、違うタイミングで、2〜3回試してみることをお勧めします。1月にうまくいかなかった方法が、6月には驚くほどしっくりくることもあります。

また、このエクササイズは、できれば物理的に紙を切ることをお勧めします。画面上で文章を移動させるのと、実際に手で紙を動かすのとでは、思考の働き方が変わります。手を使うことで、頭の中の「思い込み」から離れやすくなるのです。

まずは、1分スピーチや3分スピーチのような短いスピーチから始めてみましょう。短いスピーチでは、ひとつひとつの「意味のかたまり」がスピーチ全体に与える影響が大きいため、並べ替えることで構成の問題がよりはっきり見えてきます。たとえ、なかなか良い構成が見えてこなかったとしても、それは自然なことです。何パターンも試してみてください。また、「このスピーチの聞き手は誰か」「聞き手にどう行動してほしいか」という、「聞き手視点」の前提に立ち返ることで、並べ替えの方向性が見えてくることもあります。ひとりで行き詰まった場合は、誰かに紙片を見せて、率直な意見をもらうことも有効です。

骨組みを立て直すことが、伝わるスピーチへの最短ルートです

スピーチがまとまらないと感じるとき、その原因は言葉選びではなく、ほとんどの場合「構成」にあります。紙に印刷した原稿をハサミで切り分け、ラベルをつけ、思い込みを離れて並べ替えてみる——このシンプルなエクササイズが、見えなくなっていたOne BIG Message®を浮かび上がらせてくれます。

スピーチの骨組みを立て直すことが、伝わるスピーチへの最短ルートです。

文章をどう書くかに悩む前に、一度ハサミを手に取ってみてください。きっと、その先の執筆がずっと楽になるはずです。

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