昔からの大問題:訳者を悩ませた”I love you”の翻訳
明治時代、作家の二葉亭四迷は、ロシア語の達人で次々とロシアの文学作品を日本語に翻訳していた。
ある時、年頃の男女の恋愛場面で、愛を告白し、キスをするクライマックスシーンがあった。ここで二葉亭は “I love you” をどう訳すかでかなり苦悶したと伝えられている。
当時、男性は「君が好きだ」とも、「あなたを思っておりました」と言ってもよかった。しかし、女性にはそういう言葉がなかった。今なら「私もお慕いしていました」と言ってもいいだろう。しかし、当時、そのようなことを言ったとしたら、その女性は教養のない人だということになってしまう。そして、その台詞を言う女の主人公のイメージがこわれてしまう。
そこで二葉亭が、2日2晩考えて到達した訳は、
「死んでもいいわ」
という言葉だった。
また、他の明治の文豪は、夫婦が愛の言葉を交わすときの妻の “I love you” を
「あなた」
と訳した人もある、と名古屋大学の水谷教授から聞いたことがある。今でも、愛の直接的な表現が苦手だったり、避けようとする人が多いのは、このような言語習慣が引き継がれているからだと思われる。
黙っていることに美意識を感じる日本人
男は黙ってサッポロビール。なあんて古い宣伝があった。また、日本人には、あやまる場合に、ただ「すみません」といって頭を下げるそれだけの方がいい、弁解しない方がいいという考え方がある。
「口数はなるべく少なく、深く頭を下げて改悛の情がおもてに出るということ、これが最上の謝り方とされている」と、国語学者の金田一春彦氏は言う。
全般的にも日本人の多くは、あまり口数は多くない方がかっこいい、と思い、男は無駄口をきくものではない、などと男性は育てられる。以心伝心を信じて、「言わなくても分かるでしょ」と思いがちだ。その代わり、相手の表情や行動を観察し、心情を察するという能力を培ってきた。
アメリカは「低コンテキスト」日本は「高コンテキスト」文化
このような点を文化人類学者のエドワード・ホールは、日本語は「高コンテキスト」依存文化に属すると指摘した。言葉以外の顔の表情やニュアンス、音の高低、しぐさや、文脈から相手の真意を読み取ることに長けていて、それなしにはうまく機能しにくい言語の種類なのだ。(詳しくは、当Breakthrough Speakingの基礎講座(ウエビナー)まで)
一方で、英語は、その反対の「低コンテキスト」依存文化に属する。思っていることすべてを言語に置き換えようとする。アメリカでは、あやまる時は、いろいろと弁解をした方がいいとされる。いろんな文化背景を持つ人々が共存する社会では、「空気を読む」ことは難しく、すべてを言語で明確化した方が誤解が少ないからだ。
しかし、誤解のないようにすべてを書き表し、言い表すのはある程度の限界がある。英語圏の人でも、コミュニケーションの達人と言われる人は、言語外のコミュニケーション能力に長けている。素晴らしいプレゼンターは、皆、話される言語自体の内容よりも、ジェスチャーや声の調子、顔の表情などが大切であることを知っている。
アメリカ人と日本人が一緒に働く場合、このような正反対の社会言語環境にあることを、共に理解し合うことが大切ではないか。すなわち、お互いが歩み寄って、日本人は、黙っていないで、できるだけ思っていることを言葉に表し、一方で、アメリカ人は、言語外のコミュニケーションを察知し、理解するという相互努力だ。そこでは、アメリカ人に対して、日本のこういう高コンテキストな言語習慣を説明する必要も出てくるだろう。このような努力こそが、誤解を避け、お互い有意義なコミュニケーションができる土壌を育むことになると思う。
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