直接ものを言わない日本人
”I love you” と愛する人にすんなり言える日本人は、何人いるだろうか。
「想っていても言葉に出さなきゃ伝わらないよ」などと、テレビドラマで女の主人公にアドバイスしている場面をよく見かける。最近でこそ、努力して言語化しようという傾向が見られるが、伝統的には、日本の女性は「好きだ」というような言葉を滅多に使ってはいけないとされていた。
金田一春彦氏によれば、明治時代から、公の席で女の人が男の人をさしおいてしゃべるということはよくない、と考えられてきたらしい。だから女性は、思っていることが口にできなかった。できないといいうより、しなかった。自分の意見はあっても、それは言葉にしないで目上の人に合わせるということが、最高の女性の徳と考えられていた。
だからこそ、逆に、男の人は、女の人の気持ちを考えて振る舞わなければいけなかった。それが粋な男とされていた。
例えば、一緒にレストランに入ったとする。男が「何をたべようか」と言う。女は「何でも」と答える。そうすると、男は、この女は何が好きだろうか、と考えて、女が好きそうなものを考えて注文する、それが望ましい男のやり方だったようだ。
これができない男は、自分本位で、野暮なやつ、として嫌われた。だから男は、必死になって、好きであればあるほど、相手の好きそうなものを普段から聞いたり、密かに観察したりしたのだそうだ。
そんな歴史的文化的な背景と、 “I love you” を表現する日本語が当時は存在しなかったこと(拙稿「なぜI Love You が訳せないのか? 外国人との円滑なコミュニケーションのコツ」参照)を考えると、多くの日本人が愛を直接表現するのが苦手な理由が分かってくる。
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思っていることすべてを言いがちな外国人と話すには。。。
それが愛の表現の問題だけにとどまればいいが、現代のコミュニケーション全般において、こんな調子が続くと問題が生じやすくなる。特に、英語圏から来た外国人とのコミュニケーションに困ることになる。
それは、英語圏の文化は、すべてのものを言語化しようとする「低コンテキスト依存文化」に属し、日本は、言葉以外の顔の表情やニュアンス、音の高低、しぐさや、文脈から相手の真意を読み取ろうとする「高コンテキスト依存文化」に属するからだ。中でも日本語は、高コンテキスト文化圏の中でも一番強く非言語的なものに依存している。
一方で、アメリカ人は、かなり言語への依存度が強い。だから、常に “I love you” と言っている人が多いし、それが風習となったと考えてもおかしくない。
すべてを言語で表現し、言葉での説明を受けないと納得しない、いわば空気が読めない人と、言語以外の部分を大切にし、以心伝心をよしとして、あまり言葉を口にしない人との間には、なかなかコミュニケーションが成り立たない。
「空気が読めない」アメリカ人に対し、「空気を読め」と言っても無理な話だ。他人を変えるのは難しい。むしろ、これに気づいた人が自分を変える努力をした方が近道だろう。実際、私が通訳する時には、「彼の言う真意が分からない」とアメリカ人から指摘された場合、表面上の言葉を訳すのを改め、文化的な背景や言外の意味を補足すると、理解され、双方に喜ばれることが多い。
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空気を読んだら解説を?!
「こんなこと当たり前」と思って訳してなかった部分が意思伝達の妨げになっているのだ。これは「愛しているのが当たり前だから、愛しているといちいち言わなくてもいいだろう」と考えるのと似ている。日本人が外国人とコミュニケーションを円滑に行いたいと思ったら、こういう非言語的な部分を言語化する努力と、言語の習得という二つの側面が欠かせない。
最近は外国人でも日本語が堪能な人が増えてきた。そんな彼らと話す時に、「言わなくても分かるだろう」と考える部分や「日本では当たり前のこと」を意識して日本語で言語化してみたらどうだろう。さらには空気を読んで、それをわざわざこっそり教えてあげる努力をしたら、言葉の壁を乗り越えて、コミュニケーションが円滑になるのは意外と簡単かもしれない。日本語の非言語的な部分を言語化することに慣れておけば、あとは言語の習得に集中すればいいのだから。
(もっと詳しく学びたい方は、当Breakthrough Speakingの基礎講座(ウエビナー)まで)
外国人を含む社内のコミュニケーションを円滑にするコツ
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