リーダーの技量が問われる危機対応スピーチ その③リー・シェンロン首相(シンガポール)

「信元夏代のスピーチ術」編集長 信元です。

現在、かつてないパンデミックが世界中を脅かし、各国、各都市、各業界でのリーダーたちは、刻一刻と状況が変化する中、大胆かつ的確な判断を下す必要がある厳しい局面に立たされています。前回から、そんなリーダーたちが行った、お手本となる危機対応スピーチを取り上げ、解説しています。

ご紹介する5つのスピーチのうち、今回は3つ目です。

距離を最大限縮めてメッセージを伝えた、シンガポールのリー・シェンロン首相

シンガポールのリー・シェンロン首相は、2月8日という早い時期に、国民に直接声を届けました。

ネクタイを外したシンプルなピンクのシャツを身に着け、飾り気のない壁の前にリビングルームから持ってきたかのような普通のアームチェアだけを設置し、国民と(カメラと)シェンロン首相の間には机も何も置かず、動画ながらも、とても近い距離感を演出していたのが、まずなによりも印象的です。

演題やデスクなど、話し手と聞き手の間に物理的な境界線があると、どうしても距離を感じてしまいます。特に地位が高い方だとそれだけで距離感を感じるため、そこに物理的な境界線があると、距離を一層遠くしてしまいます。ましてや、動画メッセージの場合は、その性質上、どうしても、スクリーンという物理的な境界線を排除できません。ですから、映像の性質を理解したうえでの最大限の近距離を使い、国民と同じ目線で語りかけたのは、しっかりと考え抜かれた戦略だったことでしょう。

また、シェンロン首相のメッセージは、事実を盛ることなく、現時点で分かっている事実に基づき、今、考えられる最善の戦略について、分かりやすく伝えるとともに、急速に変化する状況下では、戦略を変更しなければいけないこともあるかもしれない、と、事実は事実として、可能性は可能性として、明確に線引きをして伝えています。

このような異例の危機的状況においては、国民が一丸となって協力し合うことが大切であることを強調したうえで、このような「みんな一緒に」というメッセージにありがちな落とし穴である、「集団へのメッセージは個々人の行動レベルにまで落としにくい」という点を一掃すべく、一人一人ができる行動喚起を明確に示しています。

そしてその行動喚起は、たった3つです。ブレイクスルーメソッドでも伝えていますが、「3のマジック」です。

1.手洗いを徹底し、目や顔を触らないこと

2.体温を一日2回計ること

3.具合が悪くなったら混雑した場所を避け、医者にかかること

そして最後には、国民の不安をぬぐい、希望を持つことができるよう、国民を勇気づける温かいメッセージで締めくくっています。

シェンロン首相のスピーチは、国民と同じ目線を保ちながらも、しっかりと彼らをまとめ上げていく、身近な信頼できるリーダー、という印象が伝わってきます。

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