「つまらないもの」なら欲しくない?!
「これ、つまらないものですが。。。」
と言って、アメリカ人にお土産を渡した所、
「なんでつまらないと言うのですか? 自分のギフトに自信がないんですか?」
とか、ちょっと日本のことを知っている人なら
「全然つまらないものじゃないですよ。そういうのを日本の謙遜と言うのですか?」
とか、中には、
「つまらない、と言うなら、もっといいものをくれればいいじゃないですか?(笑)」
と言われた、そんな経験はないだろうか?
英語で「つまらないもの」を表現すると。。。
英語で、この「つまらない」という心を伝えたくても、なかなかしっくりくる表現が見当たらない。なので、私のようにアメリカに長く住んでいると、アメリカ流に、
「これすごくおいしいんですよ。きっとお好きだと思いますので、召し上がってみてください」
(I thought this was so tasty. I am sure you will like it.)
などと、アメリカ流に英語からの直訳で、日本人に対してもつい言ってしまう自分に気づく。
この表現は、長年アメリカに住む日本人だったら、気持ちを理解してもらえそうだが、日本に一時帰国した時、同じことを言ってしまうと、ちょっと変な人、と思われてしまう。
しかし、「つまらないもの。。」と言う言葉の裏側には、謙虚な姿勢を示すためだけでなく、本当は別の理由があると、国語学者の金田一春彦さんは語る。
日本人は、古来から、何か好意を受けたらそれをいつまでも覚えていて、将来それに対して報いをしなければならない、と考えます。日本人は、だから、「先日はありがとうございました」というようなお礼の言葉を述べます。以前に何か好意を受けたことを、その次に会った時に必ず話題にするのです。もし、それを忘れていると「恩知らず」と言われます。
なので、お礼の言葉を述べるだけでなく、その好意に相当するお返しをしようと思うのだ。
だから、こういう習慣が発展すると、何か贈り物をすることイコール何か見返りを期待すること、と解釈されてしまう恐れが出てくる。そこで、相手にそんな負担をさせないために、贈り物を持って行く時には、
「これは、とるに足らないつまらないものだ。だからあなたは私にお返しをしなくてもいいのだ」
と言わないではいられない気持ちになる。
「つまらないもの」というのは、実は、「お返しの心配のいらないものだ」という言葉の代わりだったのだ。
つまり、相手に対する思いやり、愛の心から出た言葉なのだ。これをもし、あえて、英語で言うなら、こんな感じでどうだろう。
“There is no need at all for you to concern yourself with giving me anything in return.”
「ありがとう」よりも「すみません」
他にも、いろんな例が見受けられる。例えば、バスで席を譲ってもらったおばあちゃんは、「ありがとう」と言うよりも「すみません」と言う人が多いだろう。これに対しアメリカ人だったら、なぜ謝るのか、と不思議がる。しかし、このおばあちゃんの心理はこうだ。
「もし、私がこのバスに乗ってこなければ、あなたは、いつまでもそこに座っていられたでしょう。私が乗ってきたばかりにあなたがお立ちになるということで、あなたにご迷惑をおかけするでしょう。これは申し訳ありません」
という想いから出た言葉なので、「ありがとう」ではなく、「すみません」なのだ。
日本人が、アメリカ人が「ありがとう」と言うべきと思う場面で、「すみません」と言ってしまったり、価値あるものでもあえて「つまらないもの」と表現するのは、こういう愛の心がいつも裏側にあるからだと思う。
日本人が贈り物を渡す時に言う「つまらないものですが」は、「これは取るに足らないものなので、お返しの心配はいらない」と言う意味だ。「恩知らず」にならないように心がける日本人は、ついお返しをしたくなるので、そんな相手を気遣う習慣から自然に生まれた言葉だ。何気ない日本語の裏側には、実は愛があふれている。
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