あなたのスピーチジェスチャー大丈夫ですか? 非言語コミュニケーションの必読記事まとめ

こんな経験はあるだろうか。
自分では丁寧に話しているつもりなのに、なぜか相手の反応が薄い。「ちゃんと伝えたはずなのに、どうも意図が届いていない」。。。そんなもどかしさを味わったことはないだろうか。実はこれ、言葉そのものではなく、“非言語”のズレが原因であることが多いのだ。

 たとえば、「そのネクタイ素敵ですね」と褒める場面を思い浮かべてほしい。明るい声で言うのと、どこか妬ましそうな表情で言うのとでは、同じ言葉でも伝わる印象はまったく違う。日本人は特に、言葉と表情が一致していない「ジャパニーズスマイル」を指摘されがちである。せっかくのスピーチやプレゼンでも、この“ちょっとしたズレ”のせいで、相手に誤解を与えてしまうことがあるのだ。

あなたのスピーチ、言葉とジェスチャーが“ズレて”いませんか?

この記事では、このズレをどう解消し、非言語コミュニケーションを味方につけていくのかを、具体的なステップとともに紐解いていく。

 まず、メラビアンの法則を手がかりに、「なぜ言葉よりも非言語が強く影響するのか」を理解する。
 続いて、日本人が非言語でつまずきやすい文化的背景をひも解きながら、「手・動作・表情」という基本のジェスチャーを整理する。その上で、スピーチやプレゼンの場で陥りやすい注意点、そして“あなたらしい非言語表現”を磨くための方法を紹介する。
 最後に、さらに深めたい皆さんのために、関連する5つの記事もまとめて紹介する。

この記事を読むとどうなるか

 この記事を読み終えるころには、あなた自身のジェスチャーや表情の“癖”がクリアに見えてくるはずである。
 そして、「言語は低コンテクストに、デリバリーは高コンテクストに」という新しい視点で、スピーチやプレゼンの伝わり方が大きく変わっていくだろう。非言語が整うと、あなたのスピーチは驚くほど説得力を増す。相手の心にスッと届く“伝わる話し方”へ、一歩踏み出してほしい。

1. なぜ非言語が9割? メラビアンの法則から見る「伝わり方」

 ここではまず、非言語がどれほど大きな影響を持つのか、その根拠となるメラビアンの研究を丁寧に整理し、続く「1-2」で、実際のスピーチ現場に起きているズレを具体的に見ていくことにする。

1-1. メラビアンの実験が教えてくれること

 皆さんは、「この人、本当にそう思っているのかな?」と、言葉よりも表情や声から判断した経験はないだろうか。感謝の言葉を受け取っても、相手の声に温かさがなければ、どこか白々しく感じてしまう。これは、心理学者アルバート・メラビアンの研究が明らかにした、人間のごく自然な反応である。

 メラビアンは、「感情や態度が言語と非言語で矛盾した場合、人はどちらをどの程度優先して受け取るか」を実験によって調べた。たとえば、言葉はポジティブだが声のトーンは冷たい、または表情が不自然──そんな状況で、人はどの情報を信じるのかを数値化したのである。

 結果は、冒頭のグラフに示されているように、非常に象徴的な数字として知られている。

 言語情報:7%
 聴覚情報(声の調子・スピード・抑揚):38%
 視覚情報(表情・目線・姿勢・ジェスチャー):55%

 つまり、言葉そのものが相手に与える影響は、実はごくわずか。
 矛盾するメッセージが発せられた際、相手は“非言語の合計で93%”を手がかりにして本音を判断しているということだ。

 ここで一つ重要な前提がある。
 この法則は、すべてのコミュニケーションに当てはまるわけではない。あくまで「感情や態度について矛盾が起きている時」に限定される。
 しかし、私たちが日常で戸惑うコミュニケーションの多くは、まさにこの“感情のズレ”によって引き起こされている。

 そしてスピーチやプレゼンでは、緊張や習慣の影響で、この「感情の矛盾」が非常に起こりやすい。だからこそ、メラビアンの示した数字は、スピーチ技術を磨く上で大きなヒントになるのである。

1-2. スピーチ現場では何が起きているのか

 では、この「非言語93%」という事実が、実際のスピーチ現場ではどのように現れているのか。ここに、非常に興味深いポイントがある。

 たとえば、こんな場面を思い浮かべてほしい。

  • 「本日はお越しくださいまして、感謝いたします」
       …と言いながら、声が硬い。表情も動かない。
  • 「その時、本当に大変だったんです」
       …と言いながら、淡々とした口調で、眉も上がらない。

 この“言っている内容”と“表情・声の雰囲気”のズレは、スピーカー自身は気づきにくい。しかし、聞き手は驚くほど敏感に受け取ってしまう。

 ここで一つのポイントがある。
 聞き手は、言葉よりも「その人の状態」を見ている。

  • 言葉がどれだけ丁寧でも、声が冷たければ「距離を感じる」。
  • 深刻な話をしているのに表情が変わらなければ「本気に聞こえない」。
  • 褒め言葉を言っているのに目が泳いでいれば「何か裏がある」と感じられる。

 そして、講師として長年さまざまなスピーチを見てきたが、実はこれは多くの日本人スピーカーに共通する傾向である。形式ばった言葉に意識が向きすぎ、気持ちがデリバリーに乗らないのだ。

 さらに、スピーチになると人は普段以上に緊張し、表情筋が固まり、声が硬くなる。このため、“言葉は丁寧なのに、非言語は不自然”という状態が頻発するのである。

 こうしたズレを放置してしまうと、どんなに内容が素晴らしくても、「なんとなく伝わらない」「説得力が弱い」という印象につながってしまう。

 だからこそ、メラビアンの法則はスピーチにおいて特に重要なのだ。非言語が整うと、言葉の本当の意味が初めて聞き手に届く。これこそがスピーチ力向上の出発点である。

 次の章では、なぜ日本人はこの“非言語のズレ”を起こしやすいのか、その文化的背景に踏み込んでいく。

2. 日本人はなぜ非言語が苦手だと言われるのか

 ここからは、なぜ日本人がスピーチやプレゼンにおいて「非言語で誤解されやすい」のか、その背景を文化の視点から掘り下げていく。実はこれは、日本人の性質が“劣っている”からではない。むしろ、文化的に備わった強みが、スピーチの場になると裏目に出てしまうという、非常に興味深い現象なのである。

2-1. 高コンテクスト文化と「言わぬが花」

 少し考えてみてほしい。
 日本では、「空気を読む」「察する」「言わなくても分かる」が良しとされてきた。相手の気持ちを汲み取り、衝突を避け、場の調和を保つ文化だ。これが日本における高コンテクスト文化である。言葉そのものより、背景・文脈・暗黙の理解のほうがコミュニケーションの中心にある文化とも言える。(ちなみに、”低コンテキスト文化”とは全てのことを言葉に出して表現しようとする文化

 ここで一つのポイントがある。
 この文化は日常では大きな強みとなるが、スピーチやプレゼンのような“一方向の伝達場面”では逆効果になりやすい。

 たとえば、

  • 「言わぬが花」
  • 「沈黙は金」
  • 「察してほしい」

 こうした価値観は、ビジネススピーチや国際的なコミュニケーションでは「情報不足」「感情が伝わらない」「本心が読めない」と受け取られやすい。

 特にグローバルな場面では、相手は“察する文化”では育っていない。
 スピーカー側が説明を省いたり、感情を表に出さなかったりすると、聞き手はその意図を読み取れず、誤解だけが残ってしまう。

 つまり、日本的な「控えめ」「あえて言わない」が、スピーチの世界では「説得力が弱い」「意図が不明瞭」と解釈されてしまうのだ。

🔸日本人特有の「言わぬが花」

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言うべきか、言わざるべきかの選択は日米のコミュニケーション上では違いがある。日本は「言わない」という選択をし、アメリカでは「すべて言う」という選択をする。その文化的な違いを理解した上で対策を考え、意思疎通を図ることで誤解なくスムースな相互理解が得られることだろう

医療関係者男女二人が相談

2-2. ジャパニーズスマイルの光と影

 もう一つ、よく指摘されるのが“ジャパニーズスマイル”である。これは、日本人が場の空気を乱さないために見せる、礼儀正しく柔らかな笑顔のことである。しかし、ここにも光と影がある。

 光の側面は言うまでもない。
 相手への敬意、謙虚さ、調和を重んじる姿勢──これは日本文化の美徳であり、相手に安心感を与える。

 一方で、影の側面も存在する。
 悲しい時も笑顔、苦しい時も笑顔、緊張しても笑顔──これは日本では自然な対処法かもしれないが、グローバルな場では次のように誤解されることがある。

  • 「何を考えているのか分からない」
  • 「本気度が伝わらない」
  • 「自分に関心がないのかもしれない」

 これが、非言語コミュニケーションで“誤解されやすい”と言われる理由である。

 スピーチの場では、本来ならば

  • 悲しい話には悲しい表情
  • 嬉しい話には嬉しい表情
  • 重要な部分には真剣な表情

こうした“感情と表情の一致”が求められる。しかし、日本式の「まず笑顔」が作用すると、非言語のメッセージがズレてしまうのだ。

🔸あなたのちょっとした顔(ジャパニーズスマイル)の表情にも意識を向けよう!

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日米の顔のしぐさ・表情による表現方法の差は大きく、お互いの理解の妨げになることがある。だから、お互いの文化の違いをよく理解して、リハーサルを十分にしてから、スピーチ・プレゼンをすることで誤解を避け、あなたの真意が相手に伝わるように努めたい。

笑顔の女性と考え悩む女性

2-3. それでも日本人は、本当は非言語が得意なはず

 ここまで読むと、「日本人は非言語が苦手なのか」と思った方もいるだろう。しかし、実はその逆である。日本人は、本来非言語コミュニケーションに長けた民族だと言えるのだ。

 本来、日本人は次のような特性を持っている。

  • 相手の表情のわずかな変化に気づく
  • 空気の流れ、声のトーン、沈黙の意味を読み取る
  • 曖昧なニュアンスを細やかに察する
  • 場の雰囲気に調和するために、非言語的に多くの情報を感じ取る

 これらは、世界的に見ても優れたコミュニケーションスキルである。

 ここで一つのポイントがある。
 問題なのは、非言語が“苦手”なのではなく、スピーチのような場面で“その強みを封じてしまっている”ということだ。

 スピーチになると、形式的な言葉ばかりに意識が向き、感情や表情が置き去りになる。普段はできている「相手目線」「感情の一致」が、舞台に立った瞬間に発揮されなくなるのだ。

 しかし裏を返せば、これは大きなチャンスでもある。
 日本人が元々持っている“非言語の感度の高さ”をスピーチに生かすことができれば、説得力も臨場感も一気に高まる。

 ──つまり、「日本人だから非言語が苦手」なのではない。
 日本人だからこそ、非言語を強みに変えられる余地が大きいのである。

次の章では、この“強み”をどうスピーチに生かしていくのか、「手・動作・表情」という基本のジェスチャーを具体的に整理していく。

3. 基本のジェスチャー3本柱:「手・動作・表情」

 ここでは、非言語コミュニケーションの中でも、特にスピーチやプレゼンで効果が大きい3つの要素──「手」「動作」「表情」について整理していく。どれも単なる “飾り” ではなく、聞き手の理解を助け、あなたの話に臨場感と説得力を与える、大切なツールである。

3-1. 手のジェスチャーで「見える化」する

 手は、視覚的な情報を作り出す最も使いやすいツールである。大きさ・量・数・位置関係・重要度。このような抽象的な内容も、手が動くことで一瞬で「見える化」され、聞き手の理解が格段に深まるのである。

 たとえば、こんな場面を想像してみてほしい。

  • 「ポイントは3つあります」→ 3本指を立てることで、聞き手は自然と頭の中を整理しやすくなる。
  • 「これは、ほんのちょっとした問題です」→ 親指と人差し指を少しだけ開いて、その“小ささ”を視覚的に伝える。
  • 「非常に大きな問題でした」→ 両手を大きく広げて、サイズ感をダイナミックに表現する。
  • 「2つの提案を比較すると…」→ 左手を「提案A」、右手を「提案B」と位置づけ、話すたびに対応する手を少し持ち上げる。これだけで、聞き手は「今どちらの提案について話しているのか」を瞬時に理解できる。

 ここで一つのポイントがある。
 手の動きは、胸より上、ゆっくり、大きく。
 これが基本である。小さすぎたり速すぎたりすると、逆に落ち着きがなく見えてしまう。
 ゆったりと、聞き手に“見せる”意識を持つだけで、手のジェスチャーは格段に効果を発揮する。

3-2. 動作で場面と感情を“演じる”

 次は、全身を使った「動作」である。これは、スピーチの臨場感を生み出す重要な要素だ。少しだけ演技の要素が入るが、「演じる」というより、聞き手が理解しやすいように場面を再現するという感覚だと思ってほしい。

 具体的には、こんな動作が使いやすい。

  • 「指先まで凍るほど寒い日でした」
       → 両手をこすって温めるような動作をする。
  • 「思わず心臓がドキッとしました」
       → 胸に手を当て、小さく息を呑むような仕草を見せる。
  • 「あなたはどう思われますか?」
       → 聴衆の一角に向けて、軽く手のひらを向ける。

 こうした動作は、話に“リアルさ”を生み出す。
 実際、多くの一流スピーカーはアクティング(演技)のレッスンを受けている。これは決してオーバーな演劇ではなく、感情のこもった動作が、聞き手の理解と共感を引き出すことを知っているからである。

3-3. 表情は「隠しきれない本心」

 最後に取り上げたいのが、最も人の心を動かす要素である「表情」である。表情は、こちらが何を考えているか、どんな気持ちで話しているかを、言葉以上に率直に伝えてしまう。まさに「隠しきれない本心」がそのまま表れる部分なのだ。

 たとえば、次の場面を想像してみてほしい。

  • 嬉しい話をしているのに、顔だけが無表情
  • 深刻な内容なのに、なぜか微笑みが残ってしまう
  • 感謝を伝えているのに、目元が動かず硬い

 こうした“感情と表情のズレ”は、聞き手の心に大きな違和感を生む。意図していなくても、表情はあなたの内面を映し出してしまうため、言葉がどれだけ丁寧でも本心と受け取ってもらえないことがあるのだ。

 だからこそ、スピーチでは内容に応じて表情をしっかりと切り替える必要がある。

  • 嬉しい話では、自然に頬が上がる
  • つらい場面では、眉や目元がわずかに落ちる
  • 大切な部分では、表情を引き締めて間を置く
  • リラックスした情景を語る時は、呼吸を深くし、優しい表情を添える

 このように、適切な表情を“伴わせる”ことで、言葉の意味が初めて説得力を持ち始める。上手くできない人は多いので、鏡を見たり、自分のスピーチをビデオに収めて自分の表情をよく観察するといいだろう。

 ここで一つのポイントがある。

 前述のように、日本人は、場を和ませたり緊張を隠すために「笑顔」を使いがちだ。しかしスピーチにおいては、この習慣が裏目に出てしまうことがある。“笑うべきでない場面でも笑ってしまう” “深刻な話でも表情が変わらない” といった状態が、非言語の誤解を生んでしまうのである。

 表情は、あなたの話の「真実味」を決定づける要素である。言葉と気持ちが一致したとき、表情は強力なメッセージへと変わる。まさに、スピーカーの内面を最も正直に語る部分が、この “表情” なのである。

次の章では、スピーチでジェスチャーを使う際に陥りやすい落とし穴と、気をつけたいポイントを整理していく。

4. 会話・スピーチ・プレゼンでジェスチャーを使うときの4つの注意点

 ここまでは、ジェスチャーの基本とその効果を見てきた。では実際にスピーチでジェスチャーを使う際、どのような点に気をつければよいのだろうか。ここからは、これまで多くの日本人スピーカーを指導してきた経験から、特に押さえておきたい4つの注意点を紹介する。

4-1. 動作は「大きく・ゆっくり」、しかし無理はしない

 ジェスチャーで最も多い失敗が、動作が小さすぎる・速すぎるというものだ。これは聞き手にとって非常に分かりづらく、場合によっては「落ち着きがない」「自信がなさそう」といった印象につながってしまう。

 ここで一つのポイントがある。
 動作は大きく。あなたが「少し大げさかな?」と思うくらいで、聞き手にちょうど良い。
 もし、舞台なら、距離があるため、日常の動きでは伝わらない。オンラインでは、画面が小さいため、少し大きめのアクションをする方が伝わりやすい。ほんの少しだけ動きを大きくすることで、話が一気に立体的に見えるようになるものだ。とはいえ、無理に欧米式の大げさな動きをする必要はない。日本人らしい自然さを残しつつ、ほんの少しだけ動きを大きく、ゆっくりする。これだけで、格段に伝わりやすくなる。

4-2. 自分の動画を撮って、クセを“見える化”する

 ジェスチャーの習得で最も効果がある練習法は、自分の動画を撮ることである。
 これは、多くのスピーカーが避けがちだが、実際に撮ってみると驚くほど多くの“気づき”が得られる。

 たとえば、次のようなクセが見つかることが多い。

  • 手が体の横に張り付いたまま動かない
  • 同じ動作を無意識に繰り返している
  • 落ち着かず、手が小刻みに動いている
  • 目線が泳いでいる
  • 表情と内容が一致していない
  • 貧乏ゆすりが出ている

 自分では意識していないクセも、客観的に見ると一目瞭然である。

 ここで一つのポイントがある。
 撮影したら、「手」「目線」「表情」「間(ま)」の4点を重点的にチェックしてみる。
 これらは非言語の核であり、スピーチの印象を決定づける部分である。

4-3. 「どの場面で・どのジェスチャーを使うのか」を事前に決めておく

 良いスピーカーほど、ジェスチャーを“即興”で使っていない。
 実は多くの場合、原稿やメモにあらかじめジェスチャーを入れる箇所を書き込んでいるのである。そして、自然にジェスチャーができるまで、何回もリハーサルをする。

 たとえば次のように整理すると分かりやすい。

  • 「ポイントは3つ」→ ここでジェスチャー(指を立てる)
  • 「ほんの少し」→ G・親指と人差し指を小さく開く
  • 太郎「実は、あの時さあ。。。」→ 低い声で
  • エピソードA → 舞台左に移動
  • エピソードB → 舞台右に移動

 この “立ち位置の使い分け” は想像以上に効果がある。ストーリーの流れを空間でも表現でき、聞き手が「今どの話をしているか」を迷わず追えるからだ。

 ここで一つのポイントがある。
 ジェスチャーは思いつきでやると不自然になる。事前に決めておくことで初めて自然になる。これは意外かもしれないが、多くのプロスピーカーが実践していることである。

4-4. 多用しすぎない:「ここぞ」で効かせる

 ジェスチャーは非常に便利だが、多用すると逆効果である。
 常に手が動いていると、情報が散漫になり、どこが大切なのか分からなくなる。言い換えれば、インパクトが薄れてしまうのだ。

 だからこそ、重要な場面でだけジェスチャーを使うと効果が最大化する。要するに、ジェスチャーはあくまで補助。抑揚、間、姿勢、アイコンタクトと組み合わせて初めて力を発揮する。

 どれか一つに頼るのではなく、非言語全体をバランスよく使う──これが説得力あるデリバリーの鍵となる。ポイントは、単調になることを避けること。単調さを避けるために、ジェスチャー、声の抑揚、などを巧みに使うと良い。

次の章では、あなたが持つ日本人としての “非言語の強み” をどう生かし、グローバルな場で伝わるスピーチへと変えていくのか、その具体的な方法を紹介していく。

5. グローバル・パブリックスピーキングで生かす「高コンテクスト・デリバリー」

5-1. 構成・言葉は低コンテクストに、デリバリーは高コンテクストに

 日本人は「行間で伝える」「察する」文化で育ってきたため、どうしても言葉が抽象的になりやすい。しかしスピーチでは、これが聞き手の理解を妨げてしまうことがある。

 だからこそ、内容(構成・言葉)は低コンテクストに振り切る必要がある。

  • 構成は論理的に
  • 言葉は明確・簡潔・直接的に
  • 結論を先に言う
  • 曖昧表現を避ける

その一方で、ジェスチャー・表情・声の抑揚・目線・間といった非言語(デリバリー)は、日本人が本来持つ“高コンテクストな感性”をそのまま生かすことができる。

 ここが大きなポイントである。

 内容は低コンテクストに、伝え方(デリバリー)は高コンテクストに。

 この組み合わせが、グローバルな場で「伝わるスピーチ」をつくり出していく。

🔸デリバリーを磨くには?

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ストーリーにユーモアを加えるには、当日のデリバリーが大切。デリバリーとは、本番での話し方。テンポ、声の抑揚、リズム、声の大きさ、間の取り方の5つが重要な要素となる。自分の話す姿をリハーサルでビデオに撮って観察し、これらの5つのポイントが自分でできているかどうかを注視することが、デリバリー力向上の鍵だ。

心のデリバリーは宅配とは違います

🔸スピーチ構成をより論理的に、わかりやすくするための準備とは?

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スピーチの成功は準備にかかっている。準備の努力が8割と言っても過言ではない。まず聴衆の調査・分析から始まり、シンプルな構成を考え、入念にリハーサルを行う。こうすることで緊張することなく、相手の心に響き、分かりやすく、誰にでも受け入れてもらえるスピーチができるだろう

会場のマイク

5-2. 高コンテクストを“どう実践するか”──感情を届けるための小さな工夫

 では、高コンテクストなデリバリーとは、どうしたら良いのか。それは、“感情”をこめることである。しかし、多くの日本人スピーカーは、形式的な言葉に意識が向きすぎて、気持ちを表現する部分が弱くなりがちである。スピーチでは、事実だけでなく“感情がどう動いたのか”も伝える必要がある。

 そのために、デリバリー面に工夫を凝らす必要がある。つまり、

  • ジェスチャー
  • 表情
  • 声の抑揚
  • 目線
  • 間(ま)

これらの「非言語」は、日本人が本来持っている細やかな感性が最も活きる部分である。これを生かさない手はない。ここでは簡単な例として、日常生活や、スピーチにもよく登場する次の3つの場面を取り上げてみた。非言語を意識して実践する参考にしてほしい。

  • 感謝を述べる場面では、柔らかな声と温かい表情を添える
  • 失敗や反省を語る場面では、声を落ち着かせ、無理な笑顔を避ける
  • お願いやメッセージを伝える場面では、真剣な目線と丁寧な姿勢を保つ

 これは大げさなジェスチャーをするという意味ではない。

 ただ、言葉に合った表情・声のトーン・間を添えるだけで、スピーチは驚くほど伝わり方が変わっていく。つまり、高コンテクストのデリバリーとは、「あなたの内面の動き」を、さりげなく非言語に映し出すことに他ならないのである。

次の章では、こうした非言語スキルをさらに磨くために、日常でできる具体的な練習法を紹介していく。

 

6. 非言語コミュニケーションを鍛えるための具体的トレーニング

 ここまでで、非言語の重要性、文化的背景、そして「どう使うか」の基礎を整理してきた。
 では次に、「どう鍛えるか」を見ていこう。非言語は“センス”ではなく、“練習”によって確実に磨かれるスキルである。今日からできる小さな実験とトレーニングを紹介する。

6-1. 日常会話でできる「ミニ実験」

 非言語のトレーニングは、何も特別な時間を取る必要はない。日常の中で、ほんの少しだけ意識を加えるだけで、スピーチでも自然に使えるようになっていく。たとえば次のような「小さな実験」が効果的だ。

  • 普段より表情を“一段階だけ”豊かにして話してみる
  • 「ありがとう」「おめでとう」「助かりました」を、表情+声+ジェスチャーで伝えてみる
  • 嬉しい話をする時、自然な微笑みを添えてみる
  • 日常の説明に、手で「大きさ」や「数」を軽く付け足してみる

 ここで一つのポイントがある。
 ふだんの会話でできる人は、スピーチでも自然にできるようになる。

 逆に、日常ではやらないのにスピーチで突然やろうとすると、不自然になりやすい。だからこそ、毎日の中にごく軽い“非言語の練習”を混ぜ込むことが大切である。

6-2. 「ジェスチャーあり・なし」を動画で撮り比べる

 最も効果の出る練習がこれである。同じスピーチを「ジェスチャーなし」と「ジェスチャーあり」で撮影し、見比べてみる。多くの人が、この瞬間に衝撃を受ける。「同じ内容なのに、こんなに伝わり方が違うのか」と驚くのだ。

 比較すると分かることは多い。

  • ジェスチャーなしは淡々として見える
  • 内容が良くても、どこが大切なのかが伝わりにくい
  • 声と表情の硬さが目立ちやすい
  • 逆に、ジェスチャーありだと自然に表情が動き、声に抑揚がつく

 自分の映像を見返すことは勇気がいるが、間違いなく最速で上達する方法である。

6-3. 上手いスピーカーの「観察ポイント」を持つ

 非言語を身につける上で、良いスピーカーの“観察”はとても有効だ。ただし、何も意識せずに動画を見るだけでは効果は薄い。大切なのは、明確な観察ポイントを持つことである。

 たとえば次の点をチェックしてみると、非言語の理解が一気に深まる。

  • 手の位置:胸より上か、動きはゆっくりか
  • 目線:どのタイミングでどこを見ているか
  • 間(ま):重要な部分の前後で必ず間があるか
  • 姿勢:重心が安定しているか、揺れていないか
  • 声の抑揚:嬉しい場面・深刻な場面でどう変えているか
  • 表情:話の内容との「一致」がどれくらいあるか

 海外スピーカーと日本人スピーカーを見比べると、文化的違いも見えてきて面白い。そこで学んだエッセンスを、自分流に取り入れると良い。

 このように、観察するだけでなく、さらに模倣→自分のスタイルに調整する、と発展させていくとマスターできるだろう。非言語コミュニケーションは、一度身につければ一生もののスキルである。

次の章では、このブログのテーマに関連するおすすめ記事を紹介し、さらに理解を深める手がかりをお届けする。

7. 非言語のクセと文化ギャップを知るのに役立つ関連記事まとめ

 ここでは、今回の記事で扱った「非言語のズレ」「文化的背景」「ジェスチャー」「表情」などを、より深く理解するための参考記事をテーマ別にまとめて紹介したい。あなたの“気づき”をさらに広げ、非言語コミュニケーションの強化につながる内容ばかりである。

7-1. 文化の違いと誤解を減らすための記事

 非言語コミュニケーションのズレは、文化の違いから生まれることが多い。異文化において、どのように誤解が生まれ、どう回避できるのかを知っておくことは、グローバル・スピーチには欠かせない。

①誤解を避け外国人と円滑に話すためのコツ

 異文化の中では、非言語の意味が全く違うことが多い。手ぶり、目線、沈黙の扱い方、相槌の頻度など、こうした細かな違いが「誤解」を生みやすい。これらの記事では、「内容は低コンテキストに、デリバリーは高コンテキストに」を、具体例とともに「何に気をつければ伝わるのか」を丁寧に解説している。

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非言語コミュニケーションには多くの利点があると同時に、それが効果的に使われないと多くの誤解を生む温床にもなる。言語と非言語コミュニケーションの違いを理解し、うまく組み合わせることで、よりスムースな異文化間コミュニケーションが取れるようになる

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あなたの意図が伝わらないのは、日本人特有の「省略」が原因であり、その省略によって論旨がストレートに進まない。英語を学習する前に、日本語でいいから、ロジカルに、ストレートに論旨を運ぶ訓練をしよう。そうすればあなたの英語力も、外国人とのコミュニケーション能力も飛躍的に向上するだろう。

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ストレートに表現するだけが英語ではない。英語にも日本人的な言い回しがある。例えば、何か感じ良くソフトに断りたい時は、"I wish I could."(残念ながら…)を使ってみよう。柔らかく丁寧で、しかも断る意志がハッキリ伝わる、まさに日本人の心にぴったりくる断り表現だ。

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上辺だけの英語にとらわれて、本当の相手の気持ちを汲まないと異文化間コミュニケーションは成り立たない。変に相手に迎合せず、状況に応じ、自分らしさや日本人として誇りを持ち、気持ちを豊かに表現できるのが真の国際人だと言えるだろう。

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沈黙をネガティブに捉えがちなアメリカ人に対して円滑な人間関係を築くには、「言わぬが花」ではなく、本人にとって耳の痛い内容でもいいので常にフィードバックしてあげることが大切だ。逆に、切りたい人材にはフィードバックをしなければいい。自然とやる気を失い辞めていくだろう。

アメリカ人女性と日本人男性の仕事談議

②コミュニケーションギャップを解消するための詳細ステップ

 「伝えたつもり」と「伝わっていない」のギャップは、ほとんどが非言語と文化差で起こる。これら記事では、そのギャップを埋めるための“実践ステップ”が紹介されている。スピーチの改善に直結する内容であり、言語表現に関するものもある。

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文化の違いを認識し、それを深く理解し、状況に応じて臨機応変に対応することで、異文化間における誤解が避けられる。まずはどんな違いがあるのかを学習しよう。

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日本人が贈り物を渡す時に言う「つまらないものですが」は、「これは取るに足らないものなので、お返しの心配はいらない」と言う意味だ。「恩知らず」にならないように心がける日本人は、ついお返しをしたくなるので、そんな相手を気遣う習慣から自然に生まれた言葉だ。何気ない日本語の裏側には、実は愛があふれている。

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英語の Would は、単なる Will の過去形ではなく、仮定法である場合が多く、ありえないことだという前提で語っている場合がある。重要な交渉などでは、そのニュアンスはよく注意して読み取る必要があり、日頃から意識してこういう使い方には慣れておきたい。

ありえない悲しい表情

7-2. 日本人特有の「言わないコミュニケーション」を理解する記事

 日本人は“言わぬが花文化”の中で育ち、非言語に頼る習慣が強い。その結果、スピーチになると“言語化が弱い”“表現が控えめすぎる”というズレが起きやすい。ここでは、その背景を分かりやすく整理した記事を紹介する。

③日本人特有の「言わぬが花」

 行間で伝える美学が、スピーチではどう影響するのか。なぜ日本人は説明を省きがちなのか、なぜ「感情の乗せ方」が弱くなるのか、この文化的背景を理解することで、自分の弱点がクリアに見えてくる。

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日本人は、古くから言葉以外のもの(表情・ジェスチャーなど)に頼ってコミュニケーションをとってきた。だから、言語に強く依存してコミュニケーションをとる文化圏から来た外国人と話すときに誤解が生じやすい。日本人が外国人と話す時は、以心伝心に頼らないで、できるだけ思っていることを言葉で表すことが重要だ。

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しかめっ面の外人女性

④沈黙が誤解を生む温床に?!

 沈黙は文化によって意味が大きく異なる。日本では「考え中」でも、欧米では「拒絶」「無関心」と捉えられることすらある。これら記事では、“沈黙の捉え方”と“スピーチでの間の取り方”、文化の違いまで解説している。

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沈黙に対する価値の重さは日米比較すると、日本の方がはるかに大きい。その違いからくる誤解がある。アメリカ人からの質問に日本人が沈黙してしまうと侮辱ととられてしまう。何かしら言葉に出して、十分に説明する努力が必要だ。

沈黙:言ってはいけないのしぐさ
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日本人の謙虚な姿勢は、欧米人で囲まれた会議では、誤解されやすい。それを避けるためには、必要以上にうなずかない、持ち帰らずにその場で意見を言う、などの努力が必要だ。また、そういう日本人としての特徴をあらかじめ会議のメンバーに伝えて理解してもらう努力も効果的だろう。

会議中に手を挙げて発言

7-3. 表情と印象作りを深掘りする記事

 今回のブログでも触れた「ジャパニーズスマイル」や、表情が持つ“本心の影響力”。このテーマをより詳しく知りたい人におすすめの記事がこちらである。

⑤あなたのちょっとした顔の表情にも意識を向けよう!

 なぜ日本人は“笑顔でごまかす”クセがあるのか、なぜ表情と内容がズレやすいのか、どうすれば「本心が伝わる表情」になるのか、など、こうした疑問に対し、文化背景と実践方法を組み合わせてわかりやすく解説している。

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日米の顔のしぐさ・表情による表現方法の差は大きく、お互いの理解の妨げになることがある。だから、お互いの文化の違いをよく理解して、リハーサルを十分にしてから、スピーチ・プレゼンをすることで誤解を避け、あなたの真意が相手に伝わるように努めたい。

笑顔の女性と考え悩む女性

まとめ:あなたのジェスチャーには、もっと可能性がある

 ここまで見てきたように、非言語コミュニケーションは、あなたのスピーチを大きく支える「伝わる力」の源である。メラビアンの法則が示す「非言語93%」という事実は、決して大げさな数字ではない。表情・声・ジェスチャー──これらが整うだけで、同じ言葉でも聞き手の受け取り方は劇的に変わる。

 そして、日本人は本来、非言語に敏感で繊細な感性を持つ民族である。だからこそ、弱点ではなく強みに変えられるエネルギーをすでに持っているのだ。

ぜひ今後は、

  • 構成や言葉の選び方は“低コンテクスト”に
  • 伝え方(デリバリー)は“高コンテクスト”に

この2軸を意識してみてほしい。それだけで、あなたのスピーチは聞き手の心にスッと届くものへ変わっていくだろう。

グローバルで活躍したい人のための、ブレークスルー「ウェビナー基礎コース」

 ここまでの内容を読んで、「なるほど、でも一人ではなかなか身につけられなさそうだ」と感じた方も多いのではないだろうか。非言語と異文化理解を扱うスキルは、独学で進めると時間も労力もかかる。そんな時は、プロのサポートを受けるという選択肢もある。

 ブレークスルースピーキングのウェビナー基礎コースでは、今回取り上げた“デリバリー” “非言語のズレ” “文化的背景” といったポイントを、実践的に学べるカリキュラムになっている。たとえば全5回のうち1回は、異文化理解に丸ごとフォーカスし、誤解が起きる理由や、文化ごとに違う非言語の捉え方を、具体的なフレームワークで丁寧に学んでいく。

知識と具体的手法を学び、最短距離で成長を目指す

 ブレークスルーのウェビナー基礎コースは、ブレークスルースピーキング代表・信元が開発した「ブレークスルーメソッド™」を用いた、短期集中・実践型のオンライン講座である。

 これは、長年海外での実践や失敗を重ねながら得た知見を体系化した、“日本人に最適化された”スピーチ・プレゼンの学習法だ。私自身も同じように遠回りをし、試行錯誤を経てきた経験があるからこそ、このメソッドの力を強く実感している。スピーチやプレゼンは、決してビジネスエリートだけのものではない。コミュニケーション方法や、文化の違いを理解した上で、臨機応変に言語・非言語を使い分けて“伝え、動かす”ための技術は、誰にとっても必要な力である。

 あなたがもし、これからグローバルな環境で活躍したいと願うなら、言語・非言語コミュニケーションのスキルを高め、さらに、CQ(Cultural Intelligence:異文化適応力)を理解し、その上で、デリバリーは高コンテキストに、内容は低コンテキストなスピーチをすること、が大切である。そして、その成長を最短距離で後押ししてくれるのが、この基礎コースだ。

 あなたが次にステージへ進む準備を整えたい時、きっと大きな力になってくれるだろう。

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伝えるだけでは、人は動かない。

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